第84話 ふれあい

 子供を抱き上げたらぎゃん泣きされた。

 俺、何かやっちゃいました。


「負の魔力がこびりついてるわよ」


 汚い物でも見るような目でジョセアラに言われた。

 おー、そう言えば。

 俺は慌てて野菜を頬張って負の魔力を打ち消した。

 念のため精霊力と懇願力で浄化した。


「きゃ、きゃ。おんも」


 今度は嫌がられなくなった。

 よし、外の世界を見せてやる。


 子供を抱き上げたまま第3育児室と書かれたテントを出る。

 育児室と書かれたテントは6つある。

 それを通り過ぎ、教会と書かれたビニールハウスに入る。


「かみゅ」

「そうだな、神様を祀ってる」


「おとー」

「音?」


 子供が指差した先を見るとなんと俺の像が祀ってあるではないか。

 誰だこれを作ったのは。

 壊したり捨てたりするのはなんとなく抵抗がある。

 いやね、仏像とかを粗末にすると罰が当たると言われて育ったからな。

 俺の像とはいえ気が引ける。

 そうだ、木の箱を作ってもらって観音開きの扉をつけよう。

 それなら対面せずに済む。

 精神的にも楽だ。


「あれは俺だが拝む必要はないぞ。絶対だぞ」

「ないない」

「そっ、ないない」


 教会を出て俺は工場に向かった。

 子供達が一生懸命にシゲル神の文字を刻んでいる。


「おとー」


 子供が文字を指差す。

 この歳で文字が読めるって天才ではなかろうか。

 たぶん形で認識してるんだよな。

 だれかにあれはお父さんだと言われたんだろ。


 子供を連れて実家に帰ったら大騒ぎになるだろうな。

 懇願力を使えばいつでも帰れるが、踏ん切りがつかない。

 どう説明すればいいのか考えている最中だからだ。

 とりあえず、俺の無事だけ伝えておくか。


「懇願力よ。俺の実家の前に空間を繋げ」


 空間に穴が開き懐かしい実家が見える。

 涙を堪えて足を踏み出した。


「くちゃ」


 地球ってこんなにも臭かったか。

 そうか排気ガスの匂いか。


 俺は手紙を郵便受けにいれた。


「懇願力よ、姿を隠したまえ」


 玄関の扉がガラガラと開き、おふくろが姿を現した。

 声を掛けようとして思いとどまる。


「子供の声がしたようだったけど、おかしいわね。誰もいないわ」

「ちゃれ」


「ほら、また」


 俺は静かにその場を離れた。


「あなた大変。行方不明の茂から手紙が」


 遠くでそう叫んだのが聞こえた。

 すまん、まだ帰れないんだ。

 異世界を救ったら帰ろうと思う。

 異世界で戦争を無くすんだ。

 戦争を無くす為に戦争をする。

 俺って間違っているのかな。

 武力では解決しないことはきっと沢山ある。


 だが、力なき正義は無能だとどこかで聞いた。

 哲学者の言葉だったと思うから、戦争しろという訳ではないだろう。

 武力でない力の何かを生み出す必要があるのかも知れない。


 なんか少しもやっとして異世界に帰ってきた。


「いちゃい」

「いや、痛くはない。考えているだけだ」


「とでけ」

「そうだな。後でゆっくり考えよう子供に困った顔はみせられない」


 畑に行った。


「やちゃい。うまうま」

「そうだぞ。パパの作った野菜は美味いぞ」


 ミカンを食わせてやろう。

 俺はミカンの樹の所に行った。

 樹に手を置き精霊力を流し込む。

 ミカンに花が咲きみるみるうちに実をつけた。

 それをひとつ手に取り剥いて子供の口に運ぶ。


「うま。あめ」

「そうか甘いか。そろそろ帰ろうな」


 俺は子供を育児室に戻した。


「ミカンの実を生らせたから後で収穫して子供に食わせてやってくれ」

「はい、シゲル様」


 乳母の一人がそう言って育児室を出て行く。

 子供達の笑顔は守りたい。

 どんな事をしてでもだ。


 俺はふと、センシャの発展形を考えた。

 装甲は分厚く大砲を載せて、足回りはキャタピラで。

 実現するには馬力のあるエンジンが必要だな。

 石油の精製は出来ないだろうから、実現は容易ではない。

 だが、魔法がある。

 魔法でエンジンを作れないかな。

 作れはするだろうが、魔力が沢山必要だ。

 エンジンが作れるのなら平和利用も出来る。


 そうだ、平和になったら、草刈り機や管理機やトラクターなどを作りたい。

 農作業が楽になる事、請け合いだ。

 魔力は魔力デンチの出番かな。

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