第81話 シゲルラジオ

Side:サバル国の小作農


 皆で庄屋の家に集まって正座してその時を今か今かと待つ。


『ぱんぱかぱーん。シゲルラジオの時間ですよ』


 気の抜けるような音楽と共に元気の良い女性の言葉が聞こえた。


「待ってました」

「おい、静かにしろ。ラジオが聞こえない」


『まずはお便り。ラクー1番星さんから、運べど運べど荷が減りませんどうしたら良いですか。それはね。地産地消です。現地で作って現地で消費する。そうすれば運ぶ仕事は要らない』

「ちげえねぇ。よし俺らも野菜の出荷を止めるぞ。自分で作って、自分で食うぞ。搾取されるのはもう嫌だ」

「おー」

「お前ら、そうすると農具が買えなくなるんだぞ。よく考えろ」


 庄屋さんはそう言うけどもさ。

 おらは知ってる。

 工場で作っている農具はここに来るまでに3倍の値段になってるって事を。


 よし、オラはこれを質問するぞ。


「庄屋さん、作っている食い物を売らないと鍬が買えませんと手紙を書いてくんろ」

「おお、それは良い案だ」


『続いてはこの世界の真実。戦いを起こすと負の魔力が溜まります。負の魔力が溜まり過ぎるとみんな死んでしまいます』

「庄屋さん本当だか」

「確かに負の魔力は体に悪い。だが死んでしまうまでには時間がかかる。心配はいらない」

「そうか。でもみんな早死になったよな。昔は60歳を越えた人もいたげ。今は40歳が居ない」

「そうだな」


『シゲル神に祈りましょう。野菜を育てましょう。そして、争いのない生活を』

「俺はシゲル神に祈るぞ。実は昨日空から種と土が落ちてきて、シゲル神からの贈り物って書いてあったんだ。それをまいたら、一日で実がなった。奇跡はあるだよ」

「戦争反対」

「こら馬鹿な事をいうな。貴族の耳に入ったらえらい事だぞ」


『どうしても食べていけない人に朗報です。ピピデの国民になれば自分の畑が持てます。税金はかかりません』

「おい、無税だってよ」


『では、音楽をお楽しみ下さい。♪ー♪……』


 ラジオからは音楽が流れている。

 このラジオというのは色々と考えさせられる。

 的外れな事も多々あるが、世界の真実なんて昨日まで知らなかった。


 ラジオが終わっても仲間達は帰らない。


「みんなでピピデの国に逃げねぇか」

「いいねぇ」

「よし、夜逃げだ」


 みんな、もういくらも生きられないのを知っているからだ。

 負の魔力のけったくそ悪い不快感は増す一方だ。

 清浄な魔力を含んだ野菜は貴族がみんな持って行ってしまう。

 おら達の口に入るのはごくわずか。


 おら達はみんな逃げる事にした。

 幸いにしてここからピピデの国は近い。

 貴族に見つからないように夜のうちに移動して、明け方には緑溢れるピピデの国に入った。


 さて、ピピデの民はどこだ。

 このまま迷子で飢え死になんて事はないよな。

 猟師の奴がラクーの痕跡を見つけた。


 これを辿れば良いらしい。

 いざとなったら草原の草を食って生き延びてやる。

 飢饉の時には泥まで食ったからな。

 草ぐらい楽勝だ。

 昔を懐かしんで食ってみるか。


 おらは雑草を食べた。

 体の中を清浄な魔力が満ちていく。

 おい、ここは天国か。


「お前らも雑草を食ってみろ」

「何だよいきなり。腹が空いているから食うが。おい、こんな事って」

「驚きだろ」


「本当だ」

「凄い」

「ここは奇跡の地だ」


 皆、一様に驚いた様子だ。

 おらはこの雑草があれば生きていけると思った。


 ラクーが一頭こちらに駆けてくる。

 おお、お迎えがきた。

 ラクーはそばまで来るとピタリと停まった。


「お前達は何者だ?」

「ラジオを聞いて来た」

「またか。ついて来い」


 男に連れられ川のそばまで連れて来られた。


「今から祝福された土と種を配る。植えて、この川の水を掛けて世話をしろ」

「やった。奇跡の土だ。これで腹一杯食える」


 おら達は川のそばに畑を作り種を植えた。

 種はみるみるうちに実をつけた。

 拳ほどの赤い果実みたいな実だ。

 もぎって食うと甘くてすっぱかった。

 こんな美味いの食った事がない。


 そしたら、何やらボロをまとった集団が近づいてきた。


「飯だ」

「おら達の畑の作物を勝手に食うな」

「良いだろ。一杯あるんだから」

「お前ら奇跡の土を貰わなかったのか」

「貰ったよ。でもどうやったらいいか分からない」


 おら達は作物の育て方をレクチャーしてやった。


「ありがとう。実は困ってたんだ。似たような集団と抗争になって身ぐるみはがされた」

「ここはそんなに危険だか」

「俺達が守ってやるよ。それに抗争が長引くとピピデの民が仲裁に来る。人を殺した奴は縛り首だ」

「みんな、ラジオの時間だ」


『ぱんぱかぱーん。シゲルラジオの時間ですよ。最初のお便り。腹一杯食いたいさんから』

「おらだ。おらの手紙だ。さっきピピデの民に渡しておいたんだ」


『作っている食い物を売らないと鍬が買えませんですか。余った分を売りましょう。沢山余らすには生産能力の向上です。試行錯誤の毎日ですよ。レッツトライ。それでもダメな人は奇跡の土を手に入れてシゲル神に祈りましょう』


 おらのやっている事は正しいんだな。

 争いも起こしてないし。

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