第80話 テスターを作る
「魔道具カデンは物凄い売り上げですぞ」
商人からそう言われた。
「ピピデで作ってはいるが、将来的にはサバル国に作らせたいな」
「もうすでに戦後を見据えているとは、サバル国が勝てないのも通りです」
「俺としてはどの国にも、もっと農業に力を入れてほしい」
「無理でしょうな。人は便利な物に惹かれる。カデンは今やヒースレイ国、サバル国に普及し、エリーズ国にまで及んでいます」
「デュラ国はカデンを買わないのか」
「あそこは少し特殊でしてな。循環術というのが盛んでして、これを使うと疲れにくいのです。欠点もあります。常に訓練していないと鈍ってしまう。だから、便利な道具に頼らずに循環術を使い、常に手作業で仕事をこなすのです」
「なるほどね。ところで風船の効果はあったのかな? 調べてくれたんだろう」
「現状では農夫は緑の地を増やしたくして堪らないにしても、手立てがないのです。都市部の人間は工業製品で食っているのだから、わざわざ職業を変えたりしないというところですな」
「上手くいかないな」
「聖地の土と種を風船につけたら、どうでしょう」
「おう、小学生がやりそうだな。案外いいかも」
せっかくだから土に懇願力で祝福を与えておこう。
一緒に植えればよく育つはずだ。
風船はこれでいいとして。
連戦連勝のピピデ軍を支援する為にさらに何か作ろう。
そうだ、ホームセンターの木片に回復魔法を刻もう。
これでピピデの民が負傷する率が下がるはずだ。
サバルにも何か売るか。
武器は売りたくない。
戦争が嫌になるもの。
それは反戦の娯楽だな。
いくら魔法陣でもDVDは作れない。
テレビも無理だ。
ラジオは?
通信の魔道具があるのだから、作れるはずだ。
「ランドルフ、通信の魔道具の作り方を知ってるか」
「今、忙しい。戦況はとても良いが、不気味だ。奴ら何か待っている。その何かを探り出す為に考えている最中だ」
「通信の魔道具をスパイに持たせられたらどうだ」
「ほう、それは時間を割く必要があるな。しかし、通信の魔法陣を解析に成功したのか」
「いやしてない。見本があるから作れないかと思って」
「あのな。通信の魔道具みたいなのは魔法陣を二種類のインクで書いている。魔力が通るのと通らないのだ」
「ほう、見分け方は?」
「分からないから解析出来ていない。全く同じ色なんだ」
「何だよ。それなら簡単だ。テスターを作れば良い」
「テスターって何だ」
「釘みたいなのが2本あってな。二つの場所に当てる訳だ。そうするとその場所に魔力が通るかどうか知らせる」
「馬鹿みたいな根気と魔力が要るな。時間は1週間もあれば足りるか。魔力はどうするんだ」
「魔道具デンチがあるだろう」
「なるほど。サバル国がこの技術を思いつかない事を祈らないとな。それとも魔道具カデンの出荷を止めるか」
「技術なんて物はいつか真似されるんだ。魔法陣が解析されない現状がおかしいだけだ」
「エリーズ国の奴らが怒るな。特に通信の魔道具の貯蔵量はエリーズ国が第一だ。それに魔道具の生産もだ」
「通信の魔道具は今は作れないのだろう?」
「そうだ。失伝していると聞いた」
「じゃあ、作ってもいいだろう。構うもんか」
テスターを作る事にした。
木の棒に魔力が通るインクを塗る。
それに魔力が通るインクで染めた紐を繋ぐ。
紐はビニールテープを巻いて被覆した。
そして片側の紐には光る魔法陣。
もう一方には魔力デンチ。
これで完成だ。
ふむ、簡単だな。
試験だな。
魔法陣の二つの場所を木の棒で触る。
光った。
ここは魔力が通る。
お次はここは魔力が通らない。
解析は一ミリずつぐらいずらしてやっていくのだから根気がいる。
だが、職人ならやり遂げるだろう。
後日。
「遂に通信の魔道具が出来たぞ。スパイに持たせたがどうなるか」
「ラジオの方はどうなった」
「今、生産ラインに乗せているところだ。しかし、カデンをピピデの民だけで作るのは不可能だな」
「ポテチ工場の工員にやらせていいよ。魔道具なんて、心臓部は魔法陣を書くだけの仕事なんだからさ。本体も魔力デンチの魔力があれば魔力関係なしに加工が出来るだろう」
「辺境は貧しいからな。人ならいくらでも集められる。よし、工場を建てよう。幸い金はカデンなどを売った金が腐るほどある」
工業地帯を作ってしまったのかも知れない。
サバルと同盟国になったら技術移転して作ってもらおう。
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