第79話 自称勇者、再び


「アイアンスオン」


 鉄条網の魔法が展開される。


「ピピデの臆病者。こもってないで出てきて戦え」

「お前らこそ何だ。盾に隠れて前進も出来ないじゃないか」


 近寄れば銃の餌食という事が分かっているから、サバルの奴らは近づいてこない。


「勇者ここにあり。今こそ見せる神器の力。とりゃー」


 鴨神が神器を地面に振り下ろし、ピピデの陣地に地割れという打撃を加える。

 俺の出番だな。

 俺が空から近づく。


「退却。退却だ」


 逃げるのかよ。

 逃げる兵士を虐殺して回るほど鬼畜ではない。

 一進一退だな。

 一瞬、攻め込もうかという考えが頭に浮かんだ。

 駄目だ。

 侵略すれば歯止めが効かなくなる気がした。


 そして、さっきの事に繰り返しになった。

 陣地を構築し銃魔法で迎え撃つという戦法をとっているが、鴨神が神器を使い陣地をズタズタにしてしまう。

 俺が出て行くと鴨神は逃げる。

 なので一進一退だ。


 草原は広くて見晴らしがよくて素晴らしい所なんだが、狙撃には向かない。

 隠れ場所がないからだ。

 それで陣地って訳なんだが、さっきのとうりで上手くいかない。

 砦を作っても地震には勝てない。

 厄介な神器だ。


 そんな事を続けていたら、鴨神の様子がおかしくなった。


「ゆ、ゆうびゃ。お、オれ。コ、こ、コロス」


 呂律が回ってないどころか意識を保っているのか怪しい。


「ランドルフ、あれに触りたくないんだけど」

「負の魔力に飲まれたな。ああなったら、助けようがない」

「まあ、やってみるけど。懇願力よ、鴨神を浄化したまえ」


 光が鴨神に飛んで行って弾かれた。

 うそっ、効かないのか。

 無理やり遠距離でやってるとはいえ、懇願力だぞ。


「ファ、ファ、テラファイヤーアロー」


 鴨神からお返しに魔法が飛んで来る。


「テラストーンウォール」


 俺の前に分厚い石の壁が現れた。

 炎の矢は壁に当たり、壁を溶かしながらジリジリと進む。

 やばい、突破されそう。

 精霊が魔法で負けるのか。


「懇願力よ、壁を冷却しろ」


 壁が冷え炎の矢が凍り付いた。

 ふう、鴨神の奴は半分ぐらい不浄の者になっているな。

 精霊の感覚がそれを伝えてきた。

 不倶戴天の敵って訳だ。


 殺すしかないのかな。


「懇願力よ、鴨神を優しく包みこめ。働き過ぎだ。疲れただろ。眠れよ」


 困った時にスリープの呪文。

 鴨神は倒れ眠ったかに見えた。

 しかし、突然、起き上がり逃げ出した。

 その速度は目に見えないほどだ。

 どうなった。


 敵軍も撤退したし、まあいいか。


 それから、鴨神は出て来なくなり、ピピデ軍は連勝を重ねた。

 しかし、困った事に草原が負の魔力で汚染された。

 せっかく綺麗にしたのに。


 俺は負の魔力を浄化する仕事に追われた。


「なあ、ランドルフ。戦いは何時になったら終わるんだ」

「長くて10年。短くて1年だな」


「そんなに」

「ああ、国が負けを認めるのはそれだけ掛かる」


「俺なら不買運動を起こしてピピデ製品を締め出すのにな」

「無理だな。暴動が起こる。そうでなくとも民衆の不満は溜まっているんだ」

「そうなのか」

「都市部はまだましだ。だが、辺境は悲惨な物だぞ。この世界は滅びに向かっていたんだ。不満がないはずないだろ。ちょっとしたきっかけで大爆発だ」

「かじ取りが難しいな」

「そうだな。民衆がどう動くかが読めない。お決まりのコースだと、貴族は民衆から金を吸い取り戦費に充てる」

「そうなるとどうなるんだ」

「難民が出る。暮らしていけない民衆が他国に逃げる」

「厄介そうだな」

「そうだ。野生動物よりたちが悪い。犯罪者予備軍だからな。子供が強盗するようになるんだぞ。やってられない」

「殺すのか」

「殺せない。遺恨を深くすると戦後の処理が大変だ。だから、ひとまとめにして、痩せた土地を押し付ける。どこもやっている事だ」

 俺は罪深い事をしているんではないだろうか。

 俺としてはみんなで野菜を作ってハッピーに暮らして欲しいだけなのに。

 戦うよりも自国を富ませる事を考えないのかね。

 工業の国だが何だか知らないが、野菜作れよ。

 そして、負の魔力を一掃しろ。

 それしか生き残る手はないんだから。


 そうだ。

 風船に緑豊かな地を取り戻せと書いた手紙をつけて、サバル国に向けて飛ばそう。

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