第63話 召喚陣を壊す

 飛び続けて二時間あまりで王城に着いた。

 城が巨大な黒い植物で覆われている。

 これはなんだ。


「ミスリルリリー、どうなっている」


 声が聞こえてきた。


「私、もう駄目。城の地下に負の魔力の塊があるのそれを壊してお願い……」


 黒い植物が触手のように蠢く。

 兵士達が抵抗していたので、俺は黒い植物に手を置いて、精霊力を使い浄化を念じた。

 黒い植物は徐々に緑色に戻っていった。


「今のうちだ。避難しろ」

「ああ、神様。来て下さったのですね」


 緑色になった植物がまた黒くなっていく。

 兵士達といったん中庭に逃れる。


「城の地下には何がある」

「地下牢と召喚の間です」


 負の魔力の元は二つのどちらかだ。

 この兵士に案内してもらおうかな。


「案内できるか」

「ええ、お任せ下さい」


 浄化しながら、兵士と二人城を歩く。


「ところで王様達はどうなった」

「玉座は大精霊様が守ってます。しかし、いつまで持ちこたえられるか」

「急がないとな」


「ここを降りた所が地下牢です」


 地下牢には負の魔力がこびりついていた。

 しかし、城全体に影響を及ぼすほどじゃない。


 もちろん浄化しておいた。


「召喚の間ですが、鍵が掛かっています」

「行ってから、考えよう」


 召喚の間の扉に到着した。

 何百本もの黒い根が扉を守っている。

 ここがこの騒動の火元だな。


 セーラー服を着た少女が一人出て来た。

 どことなく昔を感じさせる風体だ。

 半透明なので、幽霊だと思われる。


「何かしてほしい事があるのか」


 少女が何かを喋る。

 だが声は聞こえない。

 唇の動きが分かるだけだ。

 読唇術は出来ないが、俺には日本に帰りたいと言った気がした。


「そうか辛かったな。今、日本に帰してやるぞ。精霊力フルパワー浄化」


 まばゆい光に包まれて黒い根っ子が浄化される。

 少女の霊はお辞儀すると何か言って消えた。

 ありがとうと言われた気がした。


 もう精霊力はすっからからんだ。

 こうなったら。


「懇願力よ、扉を壊せ」


 扉が粉々に吹き飛んだ。

 中は闇が実体化したと思われるほど黒い霧が渦巻いていた。

 濃密な負の魔力に俺の精霊の部分が拒否感を示す。


「懇願力よ、召喚の間を浄化しろ」


 光と闇がバチバチと火花を散らし、闇は少しずつ縮んでいった。

 あと少しというところで闇が再び勢いを取り戻す。

 どっから補給されたんだ。


 ああ、召喚陣のパワーが闇に吸われている。

 このパワーって懇願力だ。

 俺も吸い取らせてもらう。

 力の取り合いになった。

 俺の体は光り始め、光の分身が出来て徐々に大きくなっていった。

 俺の耳には人々が『シゲル神よ』と祈っているのが聞こえた。

 増大する俺のパワー。


 遂に闇は駆逐され、召喚の間は光で満たされた。


「おお、神よ」


 案内役の兵士が跪いて祈っている。

 俺の頭に召喚された人々の無念が流れ込んできた。


「お願い、日本に帰して」

「もう人を殺すのは嫌だ」

「両親に会いたい」

「魔力を増大させるのは辞めてくれ。苦しい」

「負の魔力がまとわりついて、魂が汚される」

「奴隷はもう嫌だ」


 そうか召喚されてさぞ無念だったろうな。


「懇願力よ、召喚された人の魂を元の世界に戻してやってくれ」


 ありがとうと何百人に言われた気がした。

 俺は召喚陣を見つめた。

 こんな物があるからいけないんだ。


 俺は召喚陣から懇願力をありったけ奪うと、召喚陣を魔法で壊した。


 懇願力で城全体を浄化すると、玉座の間に急いだ。

 中に入るとぐったりとしたミスリルリリーと王族と家臣がいた。


「おい、しっかりしろ」


 ミスリルリリーを揺さぶると目を開いた。


「大丈夫。じきに回復するわ」

「何となく想像はつくけど、何があった」

「私の根が召喚の間に入ったのが最初だったわ。負の魔力に打ち負かされて精霊の樹を乗っ取られそうになったの。危なかったわ」

「王様、召喚の間はいつから、ああなっていた」

「負の魔力はこびりついていたが、地下牢よりは薄かった」


 うん、幽霊が精霊力を吸い取ったのかもしれない。

 そして、負の魔力を集めた。

 真相はこんなところだろう。


 召喚陣を見つけたら俺はそれを壊す事にした。

 それに縛られている魂があったら元の世界に送ってやらないとな。

 やらなきゃならない事が一つ増えた。

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