第64話 青首の話

 デュラ国という所から魔道具が届いた。

 通信の魔道具で国宝らしい。

 くれるのかと思ったら貸すだけのようだ。

 案外けちだな。


 さっそく着信の宝石が光る。

 受話器みたいな物を手に取った。


「もしもし、リョクテ・シゲルです」

「デュラ国、国王のマーティン・デュラである」


 俺もこれぐらい偉そうに言えれば良いんだけど。

 どうにも性に合わない。

 一般人だからな。


「国宝をお貸し頂いてありがとうございます」


 田舎では物をもらったら必ずお礼を言う。

 俺もそれにならった。

 お礼は言っとかないと、人間としてどうもな。


「なに貸すだけなら一向に構わん。こんど二人だけで、力の限りぶつかり合いたいのだが」


 話し合いをしたいと言う事なのかな。


「では、お土産に青首を持っていきます」

「生きの良いのを頼む」


 しなびた野菜なんか持って行きませんよ。

 空をひとっ飛びだから、新鮮さには自信がある。

 産直だよ。

 スーパーの物とは違いますよ。


「新鮮なのを持って行きますよ」

「よしなに頼む」


 やべっ、こっちでは青首とは言わないのか

 通じているようだから構わないだろう。


Side:デュラ国の国王


 さて、ドラゴンスレイヤーはどんな男だろう。

 熱く語り合いたいものだ。


 通信の魔道具を起動した。


「もしもし、リョクテ・シゲルです」


 先に名乗るとは謙虚な男のようだ。

 それとも下手に出て油断させるつもりか。


「デュラ国の王、マーティン・デュラである」


 と俺も名乗りかえした。


「国宝をお貸し頂いてありがとうございます」


 お礼から入るとは普通の男だな。

 意外性の欠片もない。


「なに貸すだけなら一向に構わん。こんど二人だけで、力の限りぶつかり合いたいのだが」


 国宝を貸したのは返せと言った時に渋るようだったら、戦争に持ち込むためだ。

 さて相手はどう返す。


「では、お土産に青首を持っていきます」


 ほう、首を持ってくるとは剛毅だな。

 だが死んだ者などに用はない

 生きた凄腕の戦士なら歓迎だ。


「生きの良いのを頼む」


 こう言っておけば生きた状態で持ってくるだろう。


「新鮮なのを持って行きますよ」


 血の滴るような生首を持ってくるというのだな。

 まあ良い。

 少し興味が出て来た。

 そこまでに推す生首は名だたる盗賊か。

 それともドラゴンの首か。

 青首と言っていたから、ブルードラゴンに違いあるまい。

 それなら素材にもなるから受け入れてやろう。


「よしなに頼む」


 通信が切れた。

 お土産に首を持ってくるとは変わった男だ。

 やはりドラゴンスレイヤーだな。

 通常の精神とは一線を画す。


Side end


 うん、青首ってのは大根の一種で葉に近い所が緑色だ。

 つまり、首が青い。

 よく時代劇でこの大根が出て来るが、品種改良された物で江戸時代には存在しない。

 話がそれたが、デュラ国の王は良い人だな。

 大根の土産を喜んでくれて。


 この世界は野菜が貴重だというのを改めて思う。

 美味い大根を育てねば。

 ホームセンターの種だから、失敗はないと思う。

 作り慣れてる品種だからね。


「今、撒いた種はなんだ」

「ランドルフ、青首だよ」

「頭の形の野菜が生えて来るのか」

「一株を精霊力で収穫できるようにしてやろう。大きくなーれ」


 最近、精霊力の使いかたに慣れてきた。

 浄化の色を混ぜるとどうやら大精霊が生まれるらしい。

 育つ力だけなら問題はない。


「頭には見えないな」

「この地面から、根っこが少し出てるだろう。この部分が青いから青首だ」

「ほう、なるほどな」

「根っこを食うんだが、葉っぱも野菜炒めなんかにすると美味い」


「ちょっと根っこを齧ってもいいか」

「おう、がぶりとやってみろ」


 大根を齧って涙目になるランドルフ。


「辛いだろう。でも、これは序の口だ。ねずみ大根というのがあってな。これは猛烈に辛い」

「ほう、それは挑戦してみないとな」


 実は一袋だけ種を売ってたんだよ。

 誰かが取り寄せたのを、横取りしたのでなければいいけど。

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