第58話 美味しい水

「みなさん、現金収入をお持ちでうらやましいですの」


 そうエーヴリンが言った。

 みんなではないと思うが色々と始めている輩はいるな。

 よし、いやらしい意味ではなく一肌脱ごう。


「エーヴリンの能力だと水魔法だよな。水で現金収入かあ」


 地球では美味しい水とか売ってたよな。

 だが、容器がな、高いんだよ。

 ピッチャーや水筒や冷蔵庫に入れるポットはどれも高い。

 ホームセンターで一番安いのが300円ぐらい。


 蓋つきの漬物樽1680円、君に決めた。

 これに水魔法で聖水を出してもらうのは良いが、売り方を考えないといけない。

 水は重たいから沢山運べない。

 聖水の機能だけでは現地で魔法を使い作った方がお得だ。

 アイテムボックスでも持ってない限りな。


「売り方が難しい。不浄の者に掛けて討伐に使うだけじゃなんともな」

「美味しい水を沢山の人に飲んで欲しいですの」


 地球では病気が治るなんて怪しい水があったが、どうもな。

 日本で高い水と言えばなんだ。

 液体のくくりで言えば化粧品だな。

 美肌、美白効果があればまず間違いなく売れる。


 化粧品ならタルで持って行って売る段階で小瓶に詰め替えれば良い。

 だが、飲んで欲しいというエーヴリンの願いからは外れるな。


 飲んで美しくなるのはもはや薬だろう。

 ああ、俺は馬鹿だ。

 何で懇願力の事を考えない。


 タルに入れた物を軽くするように願えば良いんだ。

 そうすれば沢山運べる。

 エーヴリンが水を作ると魔力の作用で低級な聖水になる。

 これを変質できないかな。


「甘い水なんて出せないか」

「やってみるですの。ウォーター」


 飲んでみた。


「うん、少しも甘くない。味を変えるのは無理か」


 魔法で出来る事か。

 回復だとポーションになっちまう。

 それはそれで需要があるかも知れないが、目的と少し違うな。

 ここはシンプルに行こう。

 冷たい水は美味い。

 特に暑い日はそうだ。


「水の魔力がある限り冷たくはできないか」

「やってみるですの。ウォーター」


 出された水を飲んだ。


「うん、冷えてて美味い。だが、これだけだと弱いな。一杯銀貨1枚は取れる物に仕上げたい」


 匂いとほのかな味ってところだろうが。

 うーん、いまいち違うんだな。

 野菜や果物が貴重品の世界だが、現地で作った方が安上がりだ。

 大精霊または俺にしか作れない物が良い。

 うん、閃いた。

 炭酸だ。

 この世界発酵された物には炭酸もどきはあるが、炭酸水はない。


「炭酸を水に閉じ込めるって出来るか」

「炭酸って何ですの」

「二酸化炭素が水に溶けた奴だ。植物は二酸化炭素を吸って酸素を出す。大精霊なら馴染み深いだろう」

「ああ、あの葉っぱから呼吸して吸い込む奴ですの。イメージ出来たですの。ウォーター」


 飲んでみた。

 まごう事無く炭酸水だ。

 しかも冷たい。


「炭酸は抜けないのか」

「この水は呼吸しているですの。二酸化炭素を吸いこんで一定に保つですの」

「魔力ある限りか。うん、中々良い商品に仕上がったな。ついでに、化粧水と炭酸のない冷たい水も作ってみろよ」


 3種類の商品を商人に持っていった。


「一番高値で売れそうなのは化粧水ですな」

「やっぱりそうか」

「二番目はただの冷たい水ですな」

「えっ、何で」


「もちろん、涼をとったり、熱が出た時に手ぬぐいを濡らします」

「くそう、飲み物なんだよ、それは」

「ですが、冷たさが持続するとなると、そういう使い方をされるかと」

「しょうがないな。エーヴリン、聞いての通りだ」


「少し残念ですの。でも、私の出した水で皆が幸せになるのなら喜ばしい事ですの」

「ところで、このタルだけ売っては貰えないでしょうか。これが一番高値で売れると思います」

「しょぼんですの」

「しょげるなよ、エーヴリン。そういう事もあるさ。おまけの方が価値がある食玩は一杯ある」


「タルの件はどうなんでしょう」

「いいか、タルは単体では売らない。水とセットだ」

「仕方ありませんな。抱き合わせ商品というのも珍しくないですからな」


 この後、エーヴリンの機嫌を取るのが難しくて、賢者モードをオフにしてハッスルしてしまった。

 どうやら俺は商人に向かないらしい。

 商品開発は楽しいが、今回は少し失敗だった。

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