第57話 病院

「ようこそ、マクシリアの病院へ」


 マクシリアはお茶の樹の大精霊で回復魔法が得意だ。

 ビニールハウスが欲しいなんて言うから、何に使うのかと思ったら病院だ。

 病気を診察する時は服を脱ぐ事もある。

 外から見えて良いのかね。


「外から見えて良いのか。そこんところ、どうなんだ」

「ピピデの民は気にしないみたい。暑い日は上着を全部脱いでラクーに乗ったりするらしいわよ」

「女性でもか」

「ええ、そうみたい」


 大らかなんだな。

 そういえば日本も江戸時代の頃は庭で行水してたんだっけ。


「何か欲しい物があったら言っていいぞ」

「うーん、薬は薬茶で足りてるし。回復魔法もあるし。そうよ、添え木が欲しい」

「骨折が多そうだもんな」

「回復魔法でつけても脆くなっているから、しばらく固定しないといけないのよね」


 ホームセンターのエイヨーN2にも角材はある。

 仕入れるか。


 スギ材が88円。

 檜材が248円。

 大した出費でもないからな。

 角材を添え木にするために丁度いい大きさに切る。


「大変だ。ラクーから落ちた」

「ベッドにそっと寝かせて。そっとよ。頭は打った」

「いや、そんなへまな落ち方するのは子供だけだ」

「ここ痛い?」


 マクシリアが患者の腕を触った。


「うがぁ」

「ごめん痛かったわよね。折れてるわね。骨の位置を直して」

「うがぁ」

「ヒール。これで大丈夫。後は包帯を巻いて、添え木をして、また包帯を巻いてと。最後に念のため、ヒール。これでオッケーよ」


 患者はぐったりしている。


「大精霊様ありがとう。精霊様のご加護を」


 介添えの人がお礼を言う。

 俺は患者から光が出ているのに気づいた。


「あれっ、包帯が光っているぞ」

「本当ね。そんな魔法は掛けなかったのだけど」


 注意深く観察して光の出どころを探す。


「木が光っているみたいだ」

「精霊の感覚で見たら、この木は清浄な魔力が沢山詰まっているわ」

「本当だ。それが回復魔法に反応したのか」

「回復を継続しているわね」


 じゃあ木片をお守りにしたら、売れるな。

 懇願力を循環させると誓ったからな。

 買い物をして、民にばら撒くのも良いだろう。


 平べったい木材を買って小さい木片にしてお守りに入れた。

 誰か実験台は来ないかな。

 出来れば重症でない人が良い。


「すいません。また水虫ができちゃって」

「よし、回復のお守りの出番だ。これを身に着けるんだ」

「何か分からないけど、首に掛ければ良いんだね」


「よし、魔法を掛けてくれ」

「キュア。お守りが光ってるね」

「どれどれ。キュアが継続しているな。待てよこの木片は攻撃魔法にも使えるか。それはいかん。懇願力で武器は売りたくない」


 うーん、そうだ。

 こんな時こそ懇願力の出番だ。


「懇願力、木片の魔力を回復以外に使わせるな。水虫の人、木片を持って外で魔法を撃ってみてくれ」

「何か分からないけど良いよ」


 外で水虫の人が魔法を撃つ。

 持たせた木片は反応しない。

 ふむ、これでいいな。


 お守りを商人に売った。

 後日。


「回復のお守りは素晴らしいですね。病弱な人や一度の回復魔法で治らない人とかに好評です」

「そうだろう。高級品としてヒノキのお守りもあるぞ」

「ほう、スギも良い香りですが、ヒノキの香りはもっと良いですな」

「それにヒノキは育つのが遅い。つまり魔力が凝縮されているんだ。五割アップの効果がある」

「それは三倍の値段をつけても買い手が現れそうですな」


「今更だけど、この神の癒しという名前はどうなんだ」

「神官様から文句は出てないですな。それどころか神の癒しをこぞって求めています」

「ふーん、納得しているなら良い」


 俺の懇願力の増加は止まらない。

 神の癒しを量産する事に決まった。

 ピピデの民も儲かるし、病人も減るし、良い事づくめだ。

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