第47話 魔法実験

Side:魔法の国の王


「何っヒースレイ国が攻撃されただと。チャンスだ」

「それが遠距離から一方的に魔法を打ち込まれたそうですが、人的被害は軽微です。貴族の派閥が一つ消えて、返って王の権限が強まったようです」

「ぬか喜びさせてくれる」


 俺はエリーズ国の王。

 通称は魔法の国の王、魔法王だ。


「攻撃は大荒野の中心から行われたようです」

「それはもしや、大荒野の戦場であったという謎の攻撃か。くそっ、それは不味いな。射程が伸びているだと。その攻撃はこちらの王都に届くかも知れん」

「どう致しましょう」


「あの蛮族のピピデの民にできたのだ。魔法の国の威信をかけて同程度の威力の魔法を開発するのだ。それとピピデの民を連れてこい。魔法攻撃の秘密を知ってないか尋問してくれるわ」

「ええと」

「なんだはっきりしろ」

「ピピデの民は神罰を恐れて全員が大荒野に帰りました」

「なんだと。こうなったら神器を使え。あれなら大荒野に攻撃が届くだろう。準備しろ」


 俺は準備が整ったと聞いて騎士団の演習場に訪れた。


「よし、始めろ」

「嫌だ。死にたくない」


 罪人達が喚く。


 エリーズ国の神器はオーブ。

 魔法攻撃を何千倍にも増幅する。

 兵士が魔法陣を書いて何十人もの罪人達を手枷足枷をつけたままそこに座らせた。

 そして、魔法陣の中央に神器を設置しようとした。


「うわっ、負の魔力が」

「ぼやぼやするな早く設置しろ」

「うがぁ」


 設置する為に神器を運んでいた兵士が錯乱する。

 それでも我が国の兵士か。

 情けない。


「こいつは駄目だ。お前やれ」

「分かりました。くそぅ。ぐがぁ。もう無理だ」

「後一歩だ」

「はぁはぁ、早く清浄な魔力を」

「ほれ野菜だ食え」


 設置は完了したようだな。

 いよいよか。

 ピピデの民の度肝を抜いてやる。


「魔法陣を作動させろ」

「はい」


 魔法陣が光り輝き罪人達が干からびて行く。

 罪人達から負の魔力が溢れ出し神器はそれを吸収した。


 オーブが黒い閃光を発し岩の砲弾が大荒野に向けて放たれた。


「成功か」

「今しばらくお待ちください。通信魔法で辺境と連絡を取ります」


 まだか、イライラする。

 通信魔法の制約が恨めしい。

 通信魔法は我が国の国家機密で役に立っているのは間違いないが。

 魔法陣の設置に手間がかかる上に魔力も沢山消費する。


「繋がりました。辺境伯の領地に着弾した模様です。農地を汚染され辺境伯がお怒りです」

「放っておけ。今日の実験は無かった。いいな。今日の実験はなかった。いや待てよ。事故はあったが、実験は成功した。ここにいる兵士全員を拘束しろ。死んだ事にする。舌を切るのを忘れるな」

「はい」

「辺境伯には実験の成功と、責任を取るべき兵士は事故で死んだと伝えて置け」

「かしこまりました」


 国の中央から辺境まで届いたのだ。

 これは武器になるな。

 少なくとも国境は蹂躙できる。


「お待ち下さい」

「なんだ将軍」

「兵士の拘束はお考え直しを」

「では将軍が責任を取るか」

「ぐっ」

「どうだ」

「くそが」


 将軍が剣を抜いて切りかかってきた。


「バインド」

「このような腐った魔法など。し、締め付けが」


 あばらが折れる音がする。

 血を噴き出して将軍は死んだ。

 おっと、俺はマントで血を防いだ。

 血でマントが汚れたな。


「余が無能だとでも思っているのか。魔法王国の頂点に立つ魔法使いだぞ。謀反人だ。将軍の家族も捕らえておけよ」

「はい、仰せのままに」


 しかし、腹が立つ。


「ヒースレイ国の国境まで神器を移動させるか」

「それは移動中と攻撃で死ぬ兵士と戦果が釣り合わないかと。それとヒースレイはピピデと手を結んだ模様」

「みなまで言わんでも分かる。王都を攻撃される恐れがあると言うのだな」


 ふむ、なかなかに思い通りにいかんな。

 ここは一つピピデの民にならってみよう。

 どこかの国と同盟を結ぶか。

 結ぶなら工業の国サバルだな。

 この国とは国境を接していないし、魔法を重視していない国など恐れるにたらん。


「サバルに使者を出せ。交渉のエサは新しい魔法を用意しろ。生産に使えるものにしとけよ」

「攻撃魔法を渡さなければ攻撃力は上がりませんな」

「その通りだ。剣など何本あったところで役には立たん」

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