第48話 数世代先の技術

Side:工業の国の王

 俺は工業の国の王。

 政務なんかそっちのけで制作の毎日だ。

 だが我が国はそれで回る。

 他の国にするとそこが不思議でたまらんらしい。


「なんだ」

「エリーズ国から使者が参りました如何しましょう」

「待たせとけ」


 剣を一本打ってから、俺は謁見の間に出向いた。


「サバル国王陛下おなーりー」

「固っ苦しいのは無しだ。要件を言え」

「王は同盟をご希望です。ヒースレイを一緒に攻めたいのです」

「そうか。手土産はなんだ」

「生産に役立つ魔法知識にございます」

「いいだろう。人は出せないが道具は出せる」

「それでは余りにも臆病と言わざるを得ませんな」

「出せんものは出せん」

「仕方ありません。帰って王に伝えます」

「おう、よろしくな」


「よろしかったので」


 外務大臣が話し掛けて来た。


「いいって事よ。あいつらは俺達を蛮族ぐらいにしか思っちゃいない。魔法と工業は水と油だ」

「協力すれば新しい文化が生まれるのでは」

「それよ。俺達は新しい技術や考え方に対応する柔軟性がある。あいつらはコチコチだ。硬いってのは確かに強い。しかし、脆さも含む。折れやすいのよ。同盟国としてみた場合最悪の部類だろうな。時代の波に最初にとり残されるのはあいつらだ」

「ではもう一度使者が条件を変えて話を持ってきた場合は突っぱねておきます」

「おう、頼む」


 俺は工房に戻った。

 そこには大荒野から秘密裏に持ち出された武器があった。

 こりゃまた凄い物をこしらえたな。

 金属の筒の内側に螺旋を切って筒の端で爆発を起こすか。

 鉛の駒が吹き矢と同じ原理で飛び出すって寸法か。


「どう思う」


 俺は呼び出した将軍に話し掛けた。


「効率的な武器だと思います。ただ爆発部分が」

「それよ。ちっちゃい寸胴鍋の底に魔法陣がありやがる。紙に書いて貼り付けたというのは分かるが。この紙はいったいなんで出来ている」

「動物の皮ではございませんな。こんなに薄い皮は見たことがありません」

「そうよな。数世代先の技術だ」

「脅威ですな」

「ああ、まったくだ」


 さて、どうしたものだろう。

 工業の国としては道具でピピデの民に後れを取ったなんて国民に知られるのは不味い。

 筒と鉛の駒はすぐに複製が作れるだろう。

 紙はどうにもならん。

 上質な動物の皮を使ったとしてこの小さい面積に魔法陣を書き込めるか。


 書き込むにはペンも必要だ。

 細い線を書くペンの開発も必要だ。

 いっその事、金属に魔法陣を刻むか。

 一日にいくつ魔法陣が仕上がるだろうか。

 職人が何人いたら部隊が運用できるのだ。


「こうしたらどうです。ピピデの民に書簡を送ってみては」

「教えを乞うのか」


「ええ」

「見返りに何を差し出してだ」


「剣は駄目ですな。この武器には敵わない」

「とりあえずだ。友好の印とやらでも送っておけ。まずは友達からだな」


Side:アクス族のとある鍛冶屋


「また弾の注文だ。気合を入れろよ」

「親方、このルーペと言う奴は凄い。小さい魔法陣が大きく見えらぁ」

「おう、それでしっかり検品しろよ。不発弾なんて出したら承知しないからな」


「それにこのゴム印てのも凄いですね」

「おう。だが、このデザインカッターってのがないと、こんな細かい細工はできんな」


「このマスキングテープってのはどんな動物の皮なんでしょうかね」

「聞いたらよ。原料は木材だって言うじゃないか」

「親方、そりゃ高級品ですね。それじゃ失敗できない。そんな事いうから手が震えてきましたよ」


 俺はゴム印を刻む。

 手は震えない。

 慣れた物だ。

 この印刷っていう技術は良く考えたら単純だが奥深い。

 文字単位に印鑑を作って、組み合わせれば文章も一瞬で書けるらしい。

 なるほどね。


 隣の部屋では見習い達がマスキングテープに魔法陣を印刷してる。

 なんとその数20人。

 はっきり言って検品が間に合わない。

 こりゃ、見習いに検品させる日も遠くないな。


 いいかげんに違う作業がしたい。


「あーあ、連発銃が作りたい」

「それなら親方、この間ズボンと上着がつながった変な服着た男がこれを置いていきました」

「どれどれ」


 図面を見る。

 薬莢を入れるところが六つあって、一発撃つ毎に回転するのか。

 おお。

 こういうのを待ってたんだ。

 こっちのは筒を二つ並べて二回撃てるのか。

 なるほどな。

 よく考えられている。

 回転するのは歯車がいるな。

 からくりを考えるのは骨が折れそうだ。

 だが、やりがいがある。


 こっちのはばねで弾を押し出すのか。

 くるくると丸まったばねっていうのも初見だが、理にかなってる。

 板ばねじゃこうはいかないからな。

 一発撃つ毎にレバーで薬莢を排出だと。

 もっと早くこういうアイデアを出して来いよ。

 あの男にはもっとアイデアを出してもらわないと。

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