第42話 謁見
Side:ヒースレイ国の密偵
大荒野を横断する事、二週間。
目的地とするピピデ族の本拠地に着いた。
途中、緑の飛び地がいくつもあった。
やはり、神を味方につけているのか。
中々に仕事が早いな。
本拠地の縁に出来たテントで俺たちは迎えられた。
この貧相な男がドラゴンスレイヤーで王なのか。
信じられない。
もしや影武者か。
「ヒースレイ国の使節です」
「遠路はるばるご苦労様。ろくなおもてなしは出来ないけど、旅の疲れを癒してほしい」
「こちらが神器になります」
さて、邪器を前にしてどういう態度をとるかな。
あれは長時間触れると狂うという厄介な物。
まともな人間ならお側付きに扱わせるだろう。
おっ、躊躇した後につかんだぞ。
清浄な魔力を動員して抵抗しているようだ。
推定魔力、1万以上だな。
影武者にしても見事なものだ。
八人の女がいつの間にか邪器に手を置いている。
どこから現れた。
いかん、男が無害そうに見えるので気を抜いていた。
なんと邪器を浄化したぞ。
ヒースレイ国で何度も試みられたのに実現しなかった事がいま成った。
「よくやった」
女の声が聞こえると神器は光になって消えた。
「魔力は要らないから、褒美を下さい。地球と行き来できるスキルが良いです」
「それは駄目だ」
「なら、給料アップを」
「よかろう。給料を倍にしてやろう。嘘をつく訳にもいかないから、レベルも上げるぞ」
「あざっす。ステータス・オープン」
誰と会話していたのか。
離れた所にいる魔法使いだろうか。
女の方が上位者に感じられるところから、もしや女が王か。
話の内容は分からない。
地球とはどこだ。
レベルとはなんだ。
分からない事だらけだ。
分かった事はこの男は女に雇われているという事だ。
「ええと、下がっていいよ」
「ははっ」
謁見は終わった。
これはどう見たら良いのだろう。
帰ったら包み隠さず王に報告するとしよう。
◆◆◆
晩餐会だ。
茶色いスープが掛かった穀物が饗された。
俺は毒も平気だから、躊躇なく口に運んだ。
清浄な魔力の事はさておいて、美味いな。
何種類の香辛料が使われているのか見当がつかない。
おっと食事に夢中になって話を聞いてなかった。
大使と王と思われる男の会話に耳を傾ける。
「とても美味しい料理で料理人を引き抜きたいぐらいです」
「それは許可できないな」
そうだろうな。
こんな美味い料理を作る人間は渡せない。
「母国はどちらでしょう」
「ニホンだよ」
「失礼ですがどこにあるのでしょう」
「極東にある島国だ」
「さぞかし、良い所なのでしょう」
「自然豊かな四季折々なところが外国人にも人気だと思った」
「なるほど。それは一度行ってみたいですな」
「機会があればね」
二ホン? どこの国だ。
島国ということは海を越えた場所か。
「奥方様はいらっしゃらないのですか」
「八人いるよ」
八人、神器の浄化にあたった八人だろうか。
奥方を出さないのは訳があるのか。
この男が影武者だからだろうか。
影武者のパートナーなど普通の妻は嫌がるだろうから。
「それは剛毅ですな。王族でも三人ぐらいが一般的ですからな」
「縁があって結婚した。自慢の嫁だ」
「愛妻家でいらっしゃると。今度アクセサリーなど贈らせて頂きます」
「お構いなく」
断ったぞ。
普通は相手の面目を考えて受け取るはずなのに。
「そうですか」
「やっぱり、遠慮なくもらっておく。故郷の習慣で、高価な物を貰う時は一度断るって教わったもので」
「習慣の違いは難しいですな。外交ではそれでたまに失敗もおきます」
「そうだよな。はははは」
なんだ。
受け取るのか。
もったいぶりやがって。
それとも何か策略があるのだろうか。
苦笑いしているところからは読み取れない。
「ところで、戦争派の屋敷を叩き潰した攻撃は陛下が」
「あれね。秘密になっているのでノーコメント」
ま、隠すよな。
俺でもそうする。
「ドラゴンスレイヤーになった時の武勇伝など聞きたいものですな」
「それがね。偶然なんだよ。偶然、猛毒をドラゴンの口に投げ入れたんだ。それは今飲んでいるお茶だよ」
何、俺が今、飲んでいるお茶か。
このお茶には覚えがある。
潜入した時に飲んだお茶だ。
猛毒だったのか。
「ぶほっ、これは失礼を」
「俺も驚いたんだよ。いつも飲んでいるお茶がドラゴンにとって猛毒なんて。でも他のドラゴンには効かないそうだよ」
「それは残念ですな」
そうか特定のドラゴンだけに効く毒か。
俺には毒は効かないがな。
これが薬茶として飲まれているのは分かる。
毒と薬は表裏一体だからな。
晩餐会は何事もなく終わった。
大使はこんな所に二度と来るかと怒っていたが、そんなに酷い扱いでもなかった。
ただ、うちの国を下に見ているのは分かった。
やむを得まい。
邪器を浄化する力は我が国にはないからな。
王の御前で報告する。
「してどうだった」
「あれは王の器ではありませんな。どちらかと言えば農夫が相応しいかと」
「ピピデの民では農夫は選ばれた者の仕事と聞く。真の王だったかも知れぬな」
王は俺の報告を聞いてそう思ったらしい。
まさかな。
王ではないだろう。
俺の報酬を全て賭けてもいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます