第40話 俺が王様?

「俺が使節と謁見? なんでそんな話に」

「相手がドラゴンスレイヤーをご指名だからだよ」

「それじゃしょうがないな。神器も持って来てくれているみたいだし。ご苦労様の一言も言わないと礼を失するか」


 俺はひときわ豪奢なテントで使節を迎えた。


「ヒースレイ国の使節です」

「遠路はるばるご苦労様。ろくなおもてなしは出来ないけど、旅の疲れを癒してほしい」

「こちらが神器になります」


 片膝をついて差し出された厳重に布で巻かれたその物体は杖だった。

 巻かれた布の隙間から赤黒い怨念みたいな物が立ち上っている。

 触りたくないんだけど、俺が受け取らないと駄目なようだ。

 仕方ない。

 俺は覚悟を決めて受け取った。

 手から負の魔力が流れ込んでくる。

 急いで清浄な魔力でそれを抑え込んだ。

 持っている手からバチバチと火花が散る。

 助けて大精霊。

 いつの間にか大精霊八人が俺の周りに居て神器に手を置いていた。


 光と火花が散り、段々と赤黒い怨念が小さくなっていき、しまいには綺麗に無くなった。

 終わったのかな。

 巻いてある布をほどくと白銀の杖が姿を現した。


「よくやった」


 女神の声が聞こえると杖は光になって昇天して行った。


「魔力は要らないから、褒美を下さい。地球と行き来できるスキルが良いです」

「それは駄目だ」

「なら、給料アップを」

「よかろう。給料を倍にしてやろう。嘘をつく訳にもいかないから、レベルも上げるぞ」

「あざっす。ステータス・オープン」


――――――――――――――――

名前:シゲル・リョクテ

魔力:9564/19787


スキル:

 サケタの種

 国家園

 名前ジェネレータ

 言語理解

 絶倫

 賢者タイム

 レベルアップ

 エイヨーN2

 エネメス

残金:

 1,680円

 次の給与まで21日

――――――――――――――――


 よし、1万の魔力アップだ。

 使節を見るとぽかんと口を開けていた。

 驚いたのか。

 何に驚いたのだろう。

 杖の浄化か。

 それとも女神の声か。


 まあ、いいや。


「ええと、下がっていいよ」

「ははっ」


 今日は使節の人間と夕飯だ。

 今から気が重い。


 夕時になり晩餐会が開かれる。

 メニューはカツカレーだ。

 もてなす時の定番になりつつある。


「この、カツカレーというのはピピデの宮廷料理ですかな」

「いえ、母国の料理です。ですじゃなかっただよ」


 偉そうにしとけってランドルフに言われたっけ。

 偉そうってのが分からないからタメ口でいいか。


「とても美味しい料理で料理人を引き抜きたいぐらいです」

「それは許可できないな」


 許可するも何も通販スキルで出した物だからな。


「母国はどちらでしょう」

「ニホンだよ」

「失礼ですがどこにあるのでしょう」

「極東にある島国だ」

「さぞかし、良い所なのでしょう」

「自然豊かな四季折々なところが外国人にも人気だと思った」

「なるほど。それは一度行ってみたいですな」

「機会があればね」


 機会なんてないけどね。


「奥方様はいらっしゃらないのですか」


 晩餐会に誰が出るかでもめたんだよ。

 それで誰も出ない事になった。

 変に思われないかランドルフに聞いたら、従えるつもりなら無礼なぐらいで良いと言われた。


「八人いるよ」

「それは剛毅ですな。王族でも三人ぐらいが一般的ですからな」

「縁があって結婚した。自慢の嫁だ」

「愛妻家でいらっしゃると。今度アクセサリーなど贈らせて頂きます」


「お構いなく」

「そうですか」


 あれ何か間違えたかな。

 もしかして、贈り物を拒否するのは失礼にあたるのか。


「やっぱり、遠慮なくもらっておく。故郷の習慣で、高価な物を貰う時は一度断るって教わったもので」

「習慣の違いは難しいですな。外交ではそれでたまに失敗もおきます」

「そうだよな。はははは」


 笑って誤魔化しちゃえ。


「ところで、戦争派の屋敷を叩き潰した攻撃は陛下が」

「あれね。秘密になっているのでノーコメント」


「ドラゴンスレイヤーになった時の武勇伝など聞きたいものですな」

「それがね。偶然なんだよ。偶然、猛毒をドラゴンの口に投げ入れたんだ。それは今飲んでいるお茶だよ」

「ぶほっ、これは失礼を」

「俺も驚いたんだよ。いつも飲んでいるお茶がドラゴンにとって猛毒なんて。でも他のドラゴンには効かないそうだよ」

「それは残念ですな」


 なんとなく微妙な雰囲気で晩餐会は終わった。

 これで良かったのかね。

 ランドルフを見るとニコニコとしてたから問題ないんだろう。

 使節は朝早く逃げるように去って行った。

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