第39話 戦争派壊滅
Side:ヒースレイ国の密偵
「何か噂はないか」
「旦那、今の王都とは聖樹とドラゴンスレイヤーの噂で持ち切りですぜ」
聖樹の噂とは聖樹が枯れそうだという事だ。
俺は知っている。
聖樹とは言われているが、精霊の樹から採った枝を育てた物でご利益などはない。
一般の民衆は信仰している者も少なからずいるが。
だが、信仰は馬鹿にできない。
聖樹が枯れると信仰が揺らいで馬鹿な考えを持つ者もでるのだろうな。
頭の痛い事だ。
ドラゴンスレイヤーの噂はもっと深刻だ。
ピピデ国にドラゴンスレイヤーが生まれたとの事だ。
なんでもその男は王様らしい。
本当だろうか。
軍隊で倒したのを王の手柄にしただけじゃないのか。
ドラゴンの素材が流れて来たから、討伐は嘘じゃないと思う。
戦争派がこの噂で大人しくなったら良いのだが、そうもいかないのだろう。
◆◆◆
「ただいま戻りました」
「おう、帰ったか。街の噂はどうであった。講和派を非難する声であふれていただろう」
この男は潜入先の主人。
もちろん、戦争派だ。
どう言ったものか。
「聖樹様の噂ばかりでございました」
「ふん、馬鹿な民だ。精霊の樹でもないのに崇めるとはな」
「そのドラゴンスレイヤーの噂も少しだけありました」
「くだらんデマを流しおってからに。知ってるか。ピピデの民が売っている物を」
「野菜と果物でございましょう」
「それはいい。問題はデンタクとかいう偽神器だ」
「それは存じませんでした」
そうは言ったが実は知っている。
王の所で見せてもらった。
神器かそうでないか問われれば、七割で神器というところだろう。
分解してみたところ寸分たがわぬ作りだった。
とても、人間の手で作ったとは思えない。
仕組みも不明だ。
皆目仕組みが分からないときてる。
武器でない神器など物の役に立たないが、数が多いので少し引っかかる。
「計算が出来る。知の神器だと。嘘に決まっとる」
その時、轟音と共に屋敷が残骸になった。
なにっ、何が起こった。
呆けている潜入先の主人。
魔法攻撃を受けたのだろう。
講和派もやるもんだ。
「くそう、講和派の連中め。兵を集めるぞ。呼んでこい」
俺が私兵の所に行くと宿舎は潰れて跡形もなくなっていた。
逃げよう。
そうしよう。
街の人込みに紛れると街の住人が噂してた。
「戦争派の屋敷は全部潰れたって」
「本当かよ」
「おい、大変だ。聖樹様が復活したぞ」
なんだ。
何が起こっている。
聖樹の所に行くと辺りは街の住人であふれかえっていた。
聖樹は青々とした葉を茂らせ、ピンク色の花を咲かせている。
これも講和派の仕業なのか。
王に報告せねば。
「報告致します。戦争派は魔法攻撃により壊滅致しました。そして、聖樹様が復活しました」
「やつらもやりおる」
「講和派ですか」
「いやピピデ国だ。魔法攻撃はピピデ国から撃ったそうだ。攻撃一時間前に通告があった」
「戦争を吹っ掛けるような所業。黙ってはいられませんな」
「その大義名分が面白い。ヒースレイ国は聖域だそうだ。聖域は大精霊が治めると言っておる」
「事実無根の言いがかりです」
「ところがだ。あれは魔法攻撃ではなくて浄化だそうだ」
「屁理屈です」
「だが、攻撃のあった所は草が芽吹いて、清浄な魔力の色が濃くなっとる」
「もしかして聖樹様も」
「そうだあれも魔法攻撃が根元に撃ち込まれて復活した」
「戦争するのですか」
「わしは勝ち目のない戦はせん。いかに邪器が強かろうが、国をまたいで一方的に攻撃されれば、敵わんだろう」
「悔しいですね」
「連中、邪器を求めておる」
「渡すのですか」
「それがな。邪器を買いたいそうだ。一万の知の神器で」
「それは大胆な提案ですね」
「わしはこの話を受けようと思う。なんでも今後この国に攻めてくる敵は聖域を侵略する輩だから、大精霊が成敗するそうだ」
「私はこの後何を」
「邪器を受け渡す使節と一緒に行って、ピピデの王を見てくるのだ」
「分かりました。王がどんな男なのか見て参ります」
「頼んだぞ」
「かしこまりました」
さて、ピピデの王はどんな奴だろう。
予想では熊みたいな大男だが。
案外、軍師タイプの男かもしれない。
いや待てよ。
女かも知れない。
いや無いな。
これまでの経緯を見ていると、どうも軍師の影がちらつく。
なんにせよ、行ってみれば分かるだろう。
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