第36話 ピピデの民の陰謀
Side:ヒースレイ国の密偵
講和派の屋敷に潜入できた。
さて、どこから手を付けようか。
まずはお喋りなメイドだな。
「みなさんでクッキーをどうぞ」
「悪いわね。これって王都で有名な店じゃないの」
「ほんとだ。どうやって手に入れたの」
「もちろん並んでです」
「美味しいわね」
「王都ね。一度行ってみたいわ」
「貴族のお屋敷ですと色んな所から人が訪ねてくるんじゃないですか」
「そんな事に興味があるの。最近多いのはピピデの民ね。領地に住んでいるのよ」
「ほう、陳情ですかね」
「それが変なのよ。品物を献上しているらしいわ」
「品物は?」
「芋よ」
「芋ですか」
「私、あの芋は好きだな。油で揚げて塩を振るといくらでもいけちゃう」
「変わった事は?」
「痩せた畑でも育つ品種らしいわね。ピピデの民の畑以外の所でも植えるか検討中みたい」
なるほど、芋か。
痩せた畑でも育つとなると、かなりの力になるのではないか。
薬茶ほどではないが、強力なカードだ。
◆◆◆
芋畑は深緑の葉っぱで覆いつくされていた。
ここに居るのはピピデの民アード族。
なんでもピピデの民の一部族らしい。
俺達の国、ヒースレイは教会がかなり力を持っている国だ。
その関係で大草原が大荒野になり難民が溢れた時は多数を受け入れた。
ピピデの民は確か30ぐらいの部族が身を寄せているはずだ。
栽培するのを観察する。
痩せた畑で育つ作物とはいえ肥料はかなり撒くのだな。
清浄な魔力が薄くて痩せた土地だ。
こんなのでよく作物が育つものだ。
どうやら、不審な物はないようだ。
これはあてが外れたか。
その時、ラクーの隊列が到着した。
こっそり荷に注目すると、それは芋だった。
おかしい。
芋なら畑で作っている。
掘り出した所も見たから、ここで芋を作っているのは間違いない。
それなのに芋を運んでくる。
何のために。
秘密の匂いがプンプンする。
俺は貴族の家からお暇して、大荒野に行く隊商にもぐりこんだ。
芋を運んで来たのが大荒野からだと、分かったからだ。
魔獣や不浄な者と何度も戦闘して、隊商は湖に到着した。
大荒野の奥地にこんな緑の地があるなんて大発見だ。
俺は一人、隊商から離れ、遠くに見える大木を目指した。
ピピデの民が厳重な警戒を敷いていたが、それは何とか切り抜けた。
だが、あれは。
ちくしょう、見つかった。
魔獣め。
何で草食魔獣がこんなにいるんだ。
草食魔獣は俺を取り囲むと湖の方へ俺を追い立てた。
戦闘は論外だ。
ピピデの民に気づかれてしまう。
くそう、あと一歩だったのに。
俺は諦め湖に戻った。
なんと、ピピデの民は魔獣を可愛がっているではないか。
使役しているのか。
もしそうなら、物凄い戦力だ。
魔獣は小屋ほどの大きさがあるので、下手な武器など通らない。
この事実だけでもよしとするか。
なんとしても生き残り、この事実を王に報告せねば。
◆◆◆
俺は王の御前に報告に伺った。
「報告致します。貴族の事は分からなかったですが、ピピデの民の怪しい動きを捉えました。やつら魔獣を使役しています。戦争になったら、苦戦は免れません」
「ひと足遅かったな」
「それはどういう」
王の苦悶した様子。
いや、面白がっているふうも、わずかに見て取れた。
「この国は講和派に支配された」
「なんと」
俺はこの時に薬茶のからくりが全て分かった気がした。
裏で糸を引いたのはピピデの民だ。
間違いない。
「とうぶん戦はないだろう」
「ピピデの民が攻めてくるかもしれません」
「ないな。同盟を結ばされたのはピピデの国ぞ」
「まさか講和派の連中は国を売ったのでは」
「それもないと思っとる。ピピデの民から農作物が支援された。もし、攻めるのなら清浄な魔力いっぱいの野菜など送ってこんだろう」
清浄な魔力さえあれば回復魔法も使い放題だ。
確かに支援するのは余程、自信があるに違いない。
「陰謀の臭いがします。黒幕がいるのではと愚考します。ピピデの民はどこの黒幕と手を組んだのでしょう」
「たぶんだが。わしは神だと思うとる」
そうだな。
大荒野の中心に緑の地を作るなど神の所業だ。
「それは勝てませんな」
「そうだな。邪器になる前の神器も所有しているかも知れん」
「次の潜入先はいかがしましょう」
「そうだな。戦争派の動向を調べて参れ。やつら反乱を起こすつもりのようだ」
「ははっ」
支給されたのはピピデの民が贈ってきた芋だった。
たしか、油で揚げると美味いんだったな。
うっこれは。
清浄な魔力が溢れてくる。
それになんて美味いんだ。
ホクホクした触感と塩と油がマッチしている。
いくらでも食べられそうだ。
こんなのを普通に食っている奴と戦争なんて出来るか。
それに、神様がついているのなら、悪い方向には向かないだろう。
さて、戦争派のどこから調べ上げようか。
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