第35話 赤ん坊、すくすく成長中

 聖域が絶賛拡大中だ。

 さすがにキロメートルの雲を何度も発生させ聖水の雨を降らせれば、緑も芽吹くというものだ。

 現在、聖域は10キロメートルを超えたと思う。

 このぐらいの大きさだとさすがに体感できない。

 ラクーが走って辿り着く時間から割り出すしかない。


「ぶー」


 子供が揃いも揃って離乳食を嫌がる。

 俺が食ってみたところ味はおかしくないんだけどな。

 何が原因なのだろう。

 そうだ。

 妖精は肉嫌いだったな。

 かなり柔らかく煮たと思ったが、肉が駄目だったのか。

 でも、肉を食わないと栄養が偏る。

 特に成長期は不味いだろう。


 解決しないと。

 ふと、思った。

 スキルで取り寄せた和牛を食わせてみようと。


 調理した結果、食うわ食うわ。

 赤ん坊にも味が分かるんだな。

 じゃないだろう。

 たぶん、負の魔力の関係だ。


 魔獣の肉を使ったのが不味かったのだな。

 ラクーの肉をランドルフから譲ってもらう。

 だが、結果は惨敗。


「この、離乳食、負の魔力の味がするの」


 エーヴリンがそう言った。

 俺が食ったところ感じないが、微妙に分かるのだろう。

 ランドルフに相談すると、聖域に着いてから産まれたラクーの肉を持って来てくれた。

 今度はどうだ。


 そうか、美味いか。

 たんと食えよ。

 妖精が肉嫌いな理由が分かった気がする。

 ようするに有害物質が食物連鎖の頂点にいくほど凝縮されていくのと同じだ。

 草樹には負の魔力はさほどたまらない。

 それを食うラクーには少しだけ溜まる。

 肉食の魔獣には沢山溜まる。

 そういう事だろう。


  ◆◆◆


 そんな問題を解決して、何か月か経ったら、赤ん坊がハイハイし始めた。

 テントの戸締りをしっかりしてないと、いつの間にか外にでて、聖域の雑草を食って腹を壊す赤ん坊が続出した。

 妖精ってエルフみたいなんだが、草に耐性が無いのだな。

 九人もいると大変だな。

 そこで活躍したのがビニールハウス。

 中の草をむしって床に木のタイルをしいた。

 その上に絨毯をすいて万全の体制をとった。

 ビニールもシートで強化。

 暑くなると困るので屋根の上の方のビニールは取った。

 子供達は広い空間を思がままにハイハイして、すやすや寝て沢山食べた。

 子供が大きくなるのは早いものだ。


 それに応じて聖域は広がっていく現在その直径30キロメートル。

 ピピデの民の家を建てる場所にはもう困らない。

 ラクーは放牧され、昔ながらのピピデの民の生活を取り戻したと、ランドルフが言っていた。


 そして、いつしか子供達は立ち上がれるようになっていた。

 この間、悲しい事に軍隊が大荒野で戦闘を何回か行った。

 自分たちの領土が負の魔力で汚染されるのが嫌だからといって大荒野でやらなくてもいいのに。

 ゴミ捨て場じゃないんだよ。

 とうぜん、戦闘のたびに砲撃して蹴散らした。

 四か国のどの国もまんべんなく戦闘していたから、印象の良い国はなくなった。

 どの国もくそだな。


「やったぞ」

「ランドルフ、どうしたんだ。血相を変えて」

「ヒースレイ国を乗っ取った」

「国を乗っ取ったのか」

「ああ、講和派に主導権を握らした」

「じゃあ、ヒースレイ国も聖域だ。今、宣言した。後で聖水の雨を降らすぞ」


「大荒野に聖域が完全に広がるのにあと一年か」

「それが終わったら、ヒースレイ国だ。浄化しまくってやる」

「聖域が浸食してくるなんて、思いもよらないだろうな」

「聖域では大精霊が王の上だ。文句は言わせない」

「まあ、認めないだろうな」

「聖域で問題を起こす奴はもれなく砲撃だ」

「大精霊が味方でよかったよ」


 全く、神は何やっているんだろうな。

 仕事しろと言いたい。

 ランドルフはすがっても無駄だと言ったが、手助けぐらいしてほしい。

 まあ、給料は遅れる事無くもらえているが、それだけだとな。

 神器を回収したら何を願おう。

 地球と行き来なんて無理だろうか。

 無理だったら給料の倍増だな。

 それぐらいしてもらってもバチが当たらないはず。


 さて、どうやってヒースレイ国の神器を差し出させよう。

 まずは神器に頼らないで国を守れるという安心感だな。

 それと大精霊を王の上だと認めさせる。

 この二つだな。

 難しいだろうけど、なんとかやってみよう。


 その前に交易だ。

 野菜をヒースレイ国に売るのは確定として、安く仕入れて高く売れる物がいいな。

 良い事を思いついた。

 電卓を神器と偽って売ってやろう。

 一つ2百円で買えるから30万円で1千5百個買える。

 それだけあれば十分だろう。

 きっと高い金だして買うぞ。

 キャッチコピーは神の力で出しましただ。

 知の神器と噂を流せば飛びついてくるはずだ。

 電卓の便利さに恐れおののくがいい。

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