第33話 緑化推進計画

 今はミカンの樹を30本、植えているところだ。


「大きくなるのよ」


 ミリアルマが精霊力で樹を大きくすると鳥達が騒ぐ。


「こら、お前達の樹は一本だけだ」

「ぴぃ」

「可愛く鳴いても駄目だ。これは今後の戦略に大きな役目を果たすのだからな」


 野菜外交は始まっているが、甘味がない。

 そこでミカンの出番だ。

 ミカンは大荒野から他の国に運んでもそれぐらいの期間なら痛まない。

 貴重な甘味としては合格点をあげられる。


 聖域に入れる元魔獣が増えているのに気づく。

 鳥なんかはいつの間にか30羽を超えた。

 元草食魔獣なんかはどれぐらいいるのか分からないぐらいだ。

 間引きする事は考えていない。

 餌である雑草は食いきれないほど沢山生えているからな。


 魔獣は突然変異してるらしく。

 変異する前の動物の何倍も大きく賢い。

 魔獣でなくなった今、食べてはいけない物を教えると従ってくれる。


 元魔獣の子供は少し小さ目で生まれてくる。

 賢さも徐々に失われていくようだ。

 元の動物に戻っていくのだろう。

 作物に被害が出たら容赦なく間引きするつもりだ。


 さてと俺も雑草を刈るか。

 草刈り機のエンジンを掛けて雑草を刈る。

 雑草を俺が刈るとピピデの民が拾い集めラクーの餌にする。


 長閑だな。


「精が出るな」

「ランドルフ、お前こそ大変だな。各国の情勢を分析しているんだろう」

「訳ないさ。今のところどこも落ち着いているしな」


「戦争をしていた国はどうなった」

「エリーズとデュラの奴らか。それなら停戦になった」

「召喚していた国は分かったか」

「エリーズの奴らの仕業だろう。魔法技術で有名な国だから」

「今、大荒野は四つの国に囲まれているのだったよな」

「ああ、エリーズ、デュラ、サバル、ヒースレイの四つだ」


 ええと、エリーズは魔法大国。

 デュラは騎士が強いので有名。

 サバルは工業の国。

 ヒースレイは宗教の力が強いと聞いた。


「例の雲は戦争の落とし子だったよな」

「ああ、戦争が始まるとあんなのが湧いてくる」

「不浄な者は浄化されたがっているだったっけ」

「そうなんだ。それが問題だ。清浄な魔力が濃い土地に突撃してきて汚染してしまう。清浄な魔力に触れると弱るが、時間が経つと負の魔力を集めて回復する」

「結局汚染は広がるって訳ね」

「清浄な魔力の生産力が充分な時は良い。不浄な者は自然と消滅するからな。だが今はな」

「負の連鎖に嵌まっているという訳だ」


  ◆◆◆


 何かしなくちゃという気持ちに動かされ大精霊達に会いに行く。


「戦争はなくならない。俺はどうしたら良いんだろうな」

「好きなようにどうぞなの」

「うちは今のままでええと思うな」

「馬鹿じゃないの。考えたって答えなんて出ない。やれる事をやったらどう」

「下手な考え休むに似たり」

「私は暴力は嫌いです」

「ふん、戦争などする奴はどいつも有罪だな」

「自衛の為なら大精霊はいつでも戦いますわ」

「そうですね。難しい問題です。子供達が大きくなるまでに戦争のない世界になったら良いですね」


 相談しても答えは出ない。

 たぶん現地の人間が解決すべき事柄なんだろうな。

 考えていて馬鹿らしくなった。

 俺は召喚された人間だ。

 言ってみれば部外者だ。

 責任を取る立場にない。

 よし、やったるぞ。

 殴られたら殴り返せだ。


「もし、聖域を脅かす者がいたら、力を貸してくれるか」

「はいなの」

「うちもええわ」

「頼まれたからじゃなくて、その方が良い方向に行くから、やるんだからね」

「動かないと始まらない」

「自衛も必要です」

「正当防衛だ」

「そのとおりですわ」

「子供達の居場所を奪う奴らは許せません」


「よし、聖域を大荒野全体だと定めよう。そこに戦争を持ち込む奴は砲撃だ。」

「そうやな。大荒野はうちらの家や」

「ふふ、浸食だ。手始めに大荒野を本当の聖域にして、周りの国を飲み込むぞ。迷惑なんて構うものか。草ボーボーにしてやる」

「大荒野に精霊の力を行き渡らせるの」


 決めた。

 緑化を推進するぞ。

 構うものか。

 全て緑で飲み込んでやる。

 聖水をまく事業を始めよう。

 手作業でやると時間が掛かる。

 精霊の樹のそばで暖かい水蒸気を作り、水の幕で覆って飛行船を作ろう。

 それを飛ばして大荒野の上空で破裂させるんだ。

 そうすれば、聖水の雲が冷やされ雨になるだろう。


「よしやるぞ。飛行船計画だ」


 計画を説明した。


「はいなの。テラホーリーウォーターなの」

「テラホット」

「テラウォーターコントロールなの」

「テラウインドコントロールや」


 何キロもの大きさの水と水蒸気で出来た飛行船が飛んでいく。

 目的地はここからでは見えないが、大荒野に緑が芽生えていくだろう。

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