第32話 銃を作る

Side:アクス族のとある鍛冶屋

「注文だ。鋼鉄の筒を作ってくれ。それと鉛の駒だ」

「ふむふむ、注文書を見たところ、ややこしい事この上ないな」

「これがピピデの民の明暗を分けるらしい」

「分かった。試作品を明日まで仕上げておく」


 筒の内側に螺旋の溝。

 ずいぶんと凝った作りだ。

 鉛の駒の方は魔法でなくともできそうだ。


「メタルコントロール」


 魔法で鋼鉄の筒が出来上がる。

 そして、鉛を同じように魔法を使い変形させた。

 筒に駒を入れて、爆発の魔法を使うだったかな。


「ボム。くそっ、やっちまった」


 筒が爆発して破片が手にかすった。

 手から血が垂れる。

 戦士の真似事をした罰か。

 この武器は習熟に時間がかかりそうだ。


 俺は幾本も筒を仕上げた。


  ◆◆◆


 無理を言って試射に同行する。


「爆発力を最初は出来るだけ抑えろ」


 戦士頭の言に従って戦士達が筒を構える。


「撃て」

「「「「プチボム」」」」


 爆発音がして遠く離れた的に穴が空く。

 最低まで魔力を絞ってこの威力か。

 これは画期的な発明ではないだろうか。


「これで人を撃っては欲しくないんだけど」


 上着とズボンが繋がった奇妙な衣服を着た男がそばに来て言った。


「盗賊や戦争を仕掛けてくる輩はどこにでもいます」

「まあ、吹き矢の延長上の武器だからな」


 俺はその話を聞いてピンと来た。

 吹き矢なら元から矢を入れて吹く。

 この武器も元から入れて後ろを塞げば。


「肩に当てる部分を折れるようにして、元から駒を入れれば、もっと素早く撃てる」


 俺は興奮して考えを口に出していた。


「それは中折れ式銃だな」

「そういう武器がもうあるのか。俺の発明だと思ったが、世界は広い」


「鳥を獲るなら、空気銃てのもあるな」

「ああ、そうか。吹き矢をプチウインドハンマーで打ち出すのだな」

「俺としてはそっちの方が良かったんだが、魔獣には空気銃では対抗できないし」


「もっと他に知っている事はないのか」

「どうだろ、あんまり銃については詳しくないけど、薬きょうがあると連発銃も作れるのか」

「薬きょう?」

「いや関係ないか。弾を装填する仕組みがあれば連発できるのかな」

「詳しく教えてくれ」

「薬きょうっていうのは火薬が入っている所でそれに弾がついている」

「ええい、まだるっこしい。図面に起こしてくれ」


 妙な恰好の男に薬きょうの図を書いてもらう。

 なるほど爆発の方向を前に限定するのか。

 吹き矢の中に小さい吹き矢があるという形か。


 連発銃のアイデアを聞いた。

 爆発の排気で次弾を装填するだと。

 詳しい仕組みはうろ覚えだから分からないだと。

 なんという損失。

 これだから、知識をおろそかにする奴は嫌いだ。

 連発銃の知識があれば、この大陸に覇を唱える事もできるものを。

 いや言うまい。

 それは血塗られた道だ。

 草原を荒廃させた二の舞いにするところだった。


 とりあえずは薬きょう付の弾で中折れ銃だな。

 薬きょうの中に魔法陣を書けば発射の時に魔力は要らないな。

 爆発の強さも一定になってさらに安全になるだろう。


 問題は山積みだ。

 小さい薬きょうの中にどうやって魔法陣を書こう。


「なあ、お前さんや。薬きょうの中に魔法陣を書きたい。なにか知恵はないか」


 俺は奇妙な服装の男に話し掛けた。


「ハンコかな。いや、セロハンテープに魔法陣を書いて中に張り付けるとか」

「そんな便利な物があるのか」

「【エイヨーN2】オン」


 柔らかい板と丸い輪が幾つか現れた。

 ゴム版と言う柔らかい板に、魔法陣を刻むそうだ。

 ふむふむ、なるほど。

 でテープにそれを印刷すると。

 セロハンテープは駄目だ。

 インクをはじく。

 マスキングテープというのはインクが乗るな。

 なるほどこれなら魔法陣が書ける。


 少しめんどくさいが工具を使えば、薬きょうの中に貼れる。

 ピンセット使って下さいだと。

 おう、便利な物がある。

 この男の国にはどれだけ知識が溢れているやら、一度行ってみたくなったぞ。


 俺は苦労の末、中折れ銃を完成させた。


  ◆◆◆


 今日は実戦の日だ。


 エレファントタイガーを前に戦士達が中折れ銃に弾を装填する。


「一斉射撃」


 銃撃音の後にエレファントタイガーはあっけなく倒れた。

 俺は恐ろしい物を作ってしまったのではなかろうか。

 いや、聖域を守るためにはこれでも足りないぐらいだ。

 まだ、各国に聖域の事は知られてないが、知られるのも時間の問題だ。

 荒野を突っ切って大軍を進軍させる国があるとは思えないが、いずれ大軍が侵略してくるに違いない。

 それまでに準備を整えたい。

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