第31話 魔力溜り撲滅作戦

 また、一ヶ月が過ぎてしまった。

 嫁からの子供欲しいとの圧力が凄い。

 そんなに産んでどうするんだろうか。


 魔力溜りはあれから近くには見つかっていない。

 遠くなると誘導に失敗する恐れがあるとの事。

 不浄の者が荒野に隣接する国に集団で襲い掛かる事態になったら良心が痛む。

 よそ様に迷惑かける事は避けたい。

 聖域が広がるのを大人しく待つのが良いだろう。


 農業はジャガイモの量産で日が暮れる。

 茶畑も拡充したし、順風満帆だ。


 移住してくるピピデの民は相変わらず増えている。

 ランドルフによるとランドルフの部族はアクス族で千人ぐらいいるらしい。

 そんな部族が108はあるそうだ。

 総勢10万人、国としては小さいのだろうな。

 だが、これが全部移住してくると考えたらたまったものじゃない。

 それに対して俺が責任を感じるのは少し違う気がする。

 しかし、見捨てるのも寝覚めが悪い。


 ジャガイモを普通に育てるのは順調だから、食料はなんとかなるだろう。

 魔獣の狩りも上手くいっているみたいだ。

 どの魔獣も象ほどの大きさがあるから、肉は沢山獲れる。

 神器をどうするかだが、めどは立っていない。


「なあ、神器を譲ってもらえないかな」


 俺はランドルフに話しかけた。


「なにを馬鹿な事を」

「女神の意向で動いている訳だから、女神の名前をかさに着てなんとかならないか」

「なるほど。教会の力が強い国では効果があるかもしれんな。お茶と唐辛子を山ほど送って脅迫するか」

「支援して脅すのか」

「こちらは無限の清浄な魔力があるだろ。その力を見せつけるのさ」

「砲艦外交ならぬ、野菜外交か。いいよやって。失敗しても問題ない。聖域は精霊が守っているから心配はいらないさ。遠距離攻撃の方法も獲得してるし」

「アヴラ族の戦士が肝を冷やしたあれか」

「そうそう、なんちゃって精霊砲」


「どのくらい届くのだ」

「さあ」

「精霊の樹のそばから撃ったら隣国の首都も圏内に入るやもしれぬな」

「まさかあ」

「お前は精霊様にとんでもない事を教えたのかもな」

「いや普通は思いつくだろう。吹き矢はあるんだし」

「そうだな」


「そうだ魔力溜りを砲撃しまくるか。そうすりゃ魔力溜りは木っ端みじんだな」

「浄化の為に聖水を持っていく必要があるのを忘れたか。待てよアヴラ族の戦士が砲撃跡から雑草が生えたって言ってたな」


「ああ、砲弾に聖域の土を使ったからな。そのせいかな」

「頼む。荒野から魔力溜りを無くしてくれ」

「いいよ。やるのは俺じゃないけど」

「魔力溜りが草地に戻れば魔獣も正気に戻るかもしれん」


「へぇ、魔獣が元に戻るの」

「ああ、草食の魔獣が清浄な魔力を含んだ草を食べる。そうすると野生の草食獣に戻る。その草食獣を肉食の魔獣が食べる。そうすると肉食魔獣が段々と減っていく」

「荒野が平穏になるって事か。よしやろう」


 ステイニーとエリザドラとキャロリアを招集した。


「ただいまより、魔力溜り撲滅作戦を実行する」

「やったるで」

「任せて」

「頑張ります」


「目標、魔力溜り。撃てー」

「アースコントロール」

「ボム」

「ウインドコントロールや」


 俺は見ているだけ。

 良いよな、レベルアップしなくても。

 皆が幸せになればさ。

 砲撃は連日のように続いた。


「ありがとう。荒廃した荒野が段々と復活していく様を見られるなんてな」


 ランドルフにお礼を言われた。


「なに、俺は何もしてない」

「そんな事はないさ。砲撃だったかな。あれのアイデアを出したのはお前だ」

「と言っても知ってる事を言っただけだが」


「前々から聞こうと思っていたが、それはどこの知識だ」

「日本という国だな。帰れないほど遠い」

「もしかして召喚されたのか」

「たぶんそうだな」

「酷いことをする」


「そうだな、酷い。いつかは帰りたいと思ってる」


 女神に頼んでみようかな。


「きっと帰れるさ」

「ああ、諦めない限り何とかなる気がする」

「うちらを置いて帰るんや」

「置いていかないさ。みんな一緒だ。それに俺は行き来できるように女神に頼むつもりだ」

「ならええ」


 子供が既に九人いるなんて知ったら母さん驚くだろうな。

 もう召喚が起こらないように始末もつけたい。

 俺に出来ない事ばかり増えていく。


「はぁ」

「何だ溜息ついて。ピピデでは溜息をつくと邪気を招くと言うぜ」

「俺って駄目だなと改めて思ってさ」

「お前、同胞の笑顔を見てないのか。あれはお前がもたらしたものだぞ」

「そうか、俺が笑顔にしたのか」

「そうだ。王様とて人を笑顔にするなんて中々できない。自信を持て」

「そうだな。勇者は無理でも農夫ならできる」

「今、ピピデの民の男を敵に回したな。作物を作るのは名誉ある仕事だぞ。結婚したい男ナンバーワンだ」

「そうだった。農作物を作るのは名誉な事だ。食を支えてるんだからな」

「その意気だ」


 忘れていた何かを思い出したような気がした。

 俺は俺に出来る事をする。

 聖剣を持って勇者なんて柄じゃない。

 泥臭くやっていこう。

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