第30話 天罰

Side:アヴラ族の戦士

 俺はピピデの民アヴラ族の戦士。

 国は俺達を明らかに迫害している。

 満足いくほどの収穫の無い農地を押し付けられ、税が払えないと言ったら戦争に駆り出された。


「どうするよ」


 荒野の端の戦場で同じアヴラ族の戦士が聞いてきた。


「適当に戦うふりをしときゃ良いだろう」


 馬鹿らしくてやってられない。

 火の魔法が行き交い、兵士を消し炭にする。

 負の魔力で攻撃すると死んだ者は悪霊になって彷徨うと言われている。

 事実、何日か前、兵士があぶられた蒸気が集まって流れて行った。

 それは物凄くおぞましい何かだった。

 たぶん、清浄な魔力を求めて流れるのだろう。

 これで、豊かな農地が一つ消えたと思うとやるせない。


 領土を広げるための戦争で領土を荒廃させて何になる。

 あれだな、イナゴの群れだ。

 食べ物を食い尽くし荒廃させて次々に場所を移す。

 戦争している国の偉いさんはイナゴと変わらん。


「おい、何か聞こえないか」


 耳を澄ますと風切り音が聞こえてきて次の瞬間、地面が爆発した。

 爆発したとしか表現できないありさまだ。

 だが不思議と焦げた臭いはしない。

 湿った土の臭いがした。


 一発で終わりだと思ったら、それから爆発の雨だ。

 神が天罰を下したんじゃないだろうか。


「逃げるぞ。撤退だ」


 俺は周りのピピデの民に声を掛けて回った。


「こら、逃げるな。戦え。うぼっ……俺の片手がぁ」


 指揮官が爆発に巻き込まれた。

 言わんこちゃない。

 こんな状況でやってられるか。


「うわぁー……誰か、将軍の救護を」


 逃げる途中、本陣の天幕の近くを通る。

 天幕も爆発に巻き込まれたようだ。

 将軍も士官もお構いなしだな。

 やはり、天罰か。


 俺達は一旦逃げてから爆発が収まった戦場に戻った。

 幸い俺たちに被害はなく、将校が爆発に巻き込まれて多数戦死。

 俺たちの行動を咎める者はいなかった。


 俺がふと地面に目をやると窪地の地面から雑草の芽が出ていた。

 浄化のついでに戦争を邪魔したのか。

 本当に天罰だったのかもな。

 乾いた笑いがこみあげてきた。


 生き残った将校に挨拶して戦場から退去。

 どうやら停戦になるらしく、呼び止められる事もなかった。


  ◆◆◆


「おい、帰ったぞ」

「あなた、アクス族から支援物資が届いたわよ」

「何っ、本当か」


 俺は芋を食って驚いた。

 清浄な魔力が満ちてくるではないか。


「俺はこの国に愛想が尽きた。アクス族の所に身を寄せようと思う」

「そうね。それがいいかもしれない」


 俺が寄合でその件を相談するとみなが賛成した。


 移住が始まった。

 ピピデの民は元は遊牧の民。

 移動には慣れている。


 だが、旅は苦難の連続だった。


「不浄な者が近づいてくる。迂回するぞ」

「おう」


 行ったか。

 こっちに来るなよ。

 俺たちには不浄な者を倒す魔力の持ち合わせはない。

 迂回するのが最善だ。


「あった。井戸の目印だ」


 ピピデの民だけに伝わる石の伝言は頼りになる。

 危険な場所や安全なルートや水場を教えてくれる。


 岩に偽装した井戸で水を汲む。


「よしよし、たんと飲めよ」


 ラクーに水を飲ませる。

 俺達も井戸の水を飲む。


「気づいたか。不思議と負の魔力を感じない」

「ああ、そうだな。荒野から退去する時は酷い味だった。むかつくような負の魔力の味がしたもんだ」

「荒野が再生されるのかも知れない」

「なら良いが」

「希望が湧いて来たな」



 そして、道中にビックウルフの群れ。


「ここが踏ん張りどころだ。清浄な魔力をありったけ使うぞ」

「おう」


 魔獣に負の魔力の攻撃をすると怒り狂うので手が付けられなくなる。

 使いたくはないが清浄な魔力で攻撃する。


「ファイヤーランス」

「一匹片付いたな」


「ファイヤーアロー」

「手負いになった。手早く片付けろ」


「ストーンアロー」

「よし次だ」


「一時防御」

「ウインドハンマー」

「ストーンシールド」


「一斉攻撃」

「「「「「ファイヤーランス」」」」」

「ふう、やれやれ」


 戦士の奮戦もあってビックウルフの群れは片付いた。

 そして、二週間の旅の末に緑の地にたどり着いた。


「皆さん、長旅ご苦労様。聖域の主から差し入れがあります。カツカレーです」


 そうかここは聖域か。

 そういう場所か。


 土色のスープが皿に盛られた。

 見た目は悪いが匂いは良い。

 スプーンですくって口に運ぶ。

 美味い辛いが美味い。

 入っている芋と根菜が清浄な魔力を体に行き渡らせる。

 黄金色の肉を調理した物にカレーを絡めて食べる。

 美味い。

 それにこれも清浄な魔力が溢れる。

 肉はラクーのようだが、清浄な魔力溢れる肉とは豪勢だ。

 カツカレー、覚えたぞ。

 これを毎食食えるように頑張ろう。


 一緒に出された野菜サラダも美味い。

 これも清浄な魔力がたっぷりだ。


 俺の判断は間違えてなかった。

 戦争なんかする国に災いあれ。

 この場所は俺たちの希望だ。

 絶対死守しないといけない。

 俺は固く心に誓った。


 カツカレーの死守もだ。

 美味い飯のためなら命も張れるってもんだ。

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