第27話 精霊祭り
ランドルフのテントに行く途中広場で沢山人を見かけた。
「だいぶ、賑やかだが、何かあるのか」
俺はピピデの民の若者をつかまえて話かけた。
「はい、精霊祭りをやります。その準備中です」
「それは参加しないと。どういう事をやるんだ」
「ラクーを着飾って、精霊様を迎えに行きます。本当なら空の鞍で長老が手綱をとって練り歩くのですけども。本物がいらっしゃるのに空はどうなのかと揉めてます」
本物が出るべきだろう。
その方が花がある。
◆◆◆
「ランドルフ、居るか?」
「おう、今相談に行くところだった」
「精霊祭りの事か」
「大精霊様にラクーへ乗って欲しい。頼んでくれるか」
「ああ、いいよ」
「ついでに手綱を取る役も任せたい」
「そのくらいなら」
「助かったよ」
俺とランドルフが広場に行くと、金糸で刺繍された布を身につけたラクーが、少し興奮気味で立っていた。
「どうどう」
俺はラクーの首筋をなでて、手綱を取った。
「精霊を迎えに行っていいのか」
「ああ、そうしてくれ」
俺はラクーをエーヴリンの宿る精霊の樹に連れて行った。
「エーヴリン、居るんだろ」
「はいですの」
エーヴリンが樹から出て来てふわりとそばに立った。
「祭りをやるんだが、協力してくれるかい」
「はいですの」
エーヴリンを鞍に乗せ広場まで練り歩く。
途中エーヴリンには沢山の花びらが掛けられた。
「精霊祭りに花びらを使えるなんて思いもよらなかったわ」
「ほんと、ほんと。去年なんか麦わらの切った奴だもんね」
ピピデの民の少女がそう話してた。
広場に到着すると、カップルが何組も待ち構えている。
ええと、ランドルフに聞いた話だと、祝福の印を額に書けば良いんだったな。
そう思ったら、エーヴリンから光が出てカップルの額に吸い込まれた。
「祝福なの」
「本物の祝福だ」
「ほんとだわ元気な子が授かれそう」
「体に力がみなぎるぜ」
「まあ、あなたったら」
カップルは一礼すると広場に設置してある料理を取りに行った。
「俺達もご相伴に預かろう」
「はいですの」
色んな料理に舌鼓を打って楽しんだ。
「飲んでるか」
ランドルフが杯を片手に言った。
「酒はまだ飲んでないな」
「飲めよ」
そういうと徳利から杯に白濁した酒を注いで俺に渡して来た。
杯をあおる。
癖があるすっぱくてきつい酒だった。
「げほっげほっ。何の酒」
「ラクーの乳を発酵させた酒だ」
馬乳酒みたいな物か。
特別な席で振舞われる酒なのだろう。
「気づいたか。この酒は清浄な魔力を含んでる。これも聖域の雑草を食べさせたおかげだ」
「そうなの、気づかなかった」
「この酒が徳利一つで金貨が取れる。ラクー酒が金貨に化けるなんて、少し前までだったら、信じないところだ。金があったら何がしたい」
「やっぱり家かな。テント暮らしも嫌じゃないけど、木の家が懐かしい」
「それは豪気な夢だな。石やレンガの家ならともかく、木の家とは」
「目標は大きくないと」
「よし、ラクーレースをやるぞ。みんな準備しろ。コースは湖まで行ってここまで帰ってくる」
ランドルフがそういうと若者が駆け出して行った。
程なくして10頭のラクーが出揃った。
「よし良いか。始め!!」
ラクーが一斉に駆け出す。
ダイナミックに振動する鞍に若者達は簡単に乗っている。
俺が乗ったら一瞬で落馬だな。
広場では賭けが始まった。
俺はどの若者が名手なのか分からないので、シーゲルという若者に賭けた。
名前が似ていて親近感を覚えたからだ。
「エーヴリンは誰が勝つと思う」
「分からないの。でも楽しいの」
「そうか楽しんでもらって良かった。他の精霊も呼んだらよかったな」
「もう居るの」
見回すと確かに居る。
いつの間に。
ラクーが帰って来た。
先頭の若者の名前を聞くとシーゲルだと教えて貰った。
シーゲルが優勝したようだ。
「祝福を与えるの」
八つの光が次々にシーゲルに吸い込まれる光景は幻想的だった。
陽がだいぶ傾いてくると、広場の人たちは歌に合わせてチークのような踊りを踊っていた。
「俺達も踊ろう」
「はいですの」
エーヴリンと抱き合い踊る。
ムードが否が応にも高まる。
他の大精霊にもせがまれ踊った。
そして、その後【賢者モード】をオフにして、夜通しみんなと致してしまった。
お祭りってなんでこんなに盛り上がるのか。
日本人の血かな。
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