第26話 奮戦

Side:アニス族

 駄目だ。

 一族の未来は暗く閉ざされている。

 俺はピピデの民アニス族の戦士。

 俺達が昔、住んでいたピピデの地は緑溢れる所だった。

 しかし、戦乱により荒廃。

 俺達は移住を余儀なくされた。


 移住先での扱いは酷いもので、痩せて清浄な魔力が薄い土地を押し付けられた。

 税金は高くて食うのがやっと。

 俺達はどこで選択を間違えたのだろう。


「アクス族から支援物資が届いたたぞ」


 長老の一人が俺にそう言ってきた。


「なにっ、このご時勢で見返りもなしに支援するような部族がいたのか」

「それが居たんだな。嘘だと思うならこの芋を見てみろ」


 袋から取り出された芋は丸々と太って少し芽が出ていた。


「見たことのない芋だな」

「なんでも芽には毒があるそうだ」

「そうか。それで今まで食べられてなかったのかもな」


「食ってみたが、ホクホクして美味かったぞ」

「それでアクス族のやつらはなんて」

「それがな、支援するから国の中枢にくい込めだとさ」

「正気か」

「ああ、正気らしい」


 この国での立場を強くするのは賛成だ。

 立場が強くなれば、もう少しましな場所を割り当ててもらえるかも知れん。


 それなら手っ取り早いのは戦争で手柄を立てる事だな。

 俺は芋を受け取り毒だと言われている芽を取り除き、塩ゆでにするため火に掛けた。

 そして、武器の手入れを始めた。


 武器の手入れが終わる頃には芋は湯だっていた。

 水をこぼし熱々の芋を食う。


 なんだ、清浄な魔力が溢れてくる。

 この魔力さえあれば、戦場で充分な活躍ができるぞ。


 手始めは不浄な者の討伐に参加するか。


  ◆◆◆


 俺は戦士仲間を集めて戦場に赴いた。


「不浄な者が攻めてくるぞ」


 伝令がそう言って駆けて行った。


「よし、俺達も出るぞ」


 戦場は一進一退だった。

 負の魔力を使った魔法では、不浄な者を一時的に弾き飛ばす事は出来ても、ダメージは与えられない。


「ファイヤーランス」


 清浄な魔力を使って魔法を放つ。

 不浄な者は炎に包まれ燃え尽きた。

 放った魔力が戻ってくる時に、不浄な者の魔力に汚染されて、負の魔力が増える。

 俺は揚げたジャガイモをほおばった。

 体内の負の魔力が駆逐されて、清浄な魔力が満ちる。


 芋なら幾らでもある。

 長老は戦地に赴く俺達に充分な量を支給してくれたからな。


「プチファイヤーランス」

「プチウインドカッター」

「ウインドハンマー」


 他のピピデの戦士が奮戦している。

 俺も頑張らないと。


「王級の不浄な者がくるぞ」

「任せておけ。メガファイヤーランス」


 俺は魔法を唱えた。

 丸太ほどの太さの炎の槍が赤い直線を描いて敵に向う。

 王級の不浄な者に魔法は直撃して、周りの不浄な者を巻き込んで灰にした。


 負の魔力が体に満ちてくる。

 慌てて揚げた芋をほおばった。


 どうやら襲撃は終わったらしい。

 不浄な者は退いて行った。


「大将首を上げたのは誰だ」

「ああ、俺だ」


 顔色の悪い士官が聞いてきたので俺は答えた。


「将軍が褒賞をくださるそうだ」

「顔色が悪いが大丈夫か」

「負の魔力にあてられて、なに少し経てばなれる」

「こいつを食うと良い」


 俺は揚げた芋を差し出した。


「美味い。酒が欲しくなるな。それにこの溢れんばかりの清浄な魔力はなんだ」

「ピピデの民の底力さ」

「すまん、貴重な物を」

「良いんだよ。同じ国に住む仲間じゃないか」

「何か困った事があったら言ってくれ」


 ちょろいもんだ。

 利用できそうな士官を一人確保だ。


 将軍の天幕に行くと、将軍は渋い顔をしていた。


「大将首を上げた者を連れてきました」

「ご苦労。驚いた。ピピデの民は勇猛だと聞かされていたが、本当だったな」

「褒められると、こそばゆいですぜ」

「いや、あの王級の不浄な者には何度も煮え湯を飲まされた。これでこの地の不浄な者は撲滅できるだろう。よくやった」

「同じ国に住む者として当然です」

「褒美は何が良い」

「高級な薬茶を手に入れまして、王様に献上したいと思います」

「ほうそれは王もお喜びになられるだろう」


 ちょろいな。

 だが、俺の役目はここまでだ。

 王様に謁見するのは長老にやって貰おう。


 アクス族は大陸に覇を唱えるつもりなんだろうか。

 大陸を統一できるならして貰いたいところだ。

 同じピピデの民として応援したい。

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