第24話 金の匂い
Side:商人
私はしがない元宝石商。
昔は各国を回って宝石を商っていました。
今では野菜を商う生活。
道程短縮の為に私達は大荒野に向った。
大荒野は障害物がないので、大幅に短縮できます。
私が儲かっているのもこれをつかっているからです。
あれに見えるのはピピデの民の隊商ではないですか。
ピピデの民が食い詰めて商人に鞍替えしたのでしょうか。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
「この隊商はどこに行くのですか?」
「ああ、同族に野菜を持って行くところだ」
「私も野菜を商っています。見せて頂いてもよろしいですか?」
「いいぜ。売ったりは出来ないけどもな」
丸々太った芋を見て思う美味そうだなと。
「同族というと荒野のふちに住んでいるアクス族ですよね?」
「ああ、そうだよ」
この隊商は大荒野の奥から来ました。
はて、大荒野の奥にアクス族は拠点を構えたのでしょうか。
金の匂いがします。
「ピピデの後をつけなさい」
「報酬は弾んでくれるのかい」
「ええ、大荒野の奥の拠点を見つけたら更に上乗せします」
そう言って護衛の一人を送り出しました。
一ヶ月ほどたって護衛の男はよれよれになって戻ってきました。
「ご苦労様。それで結果は?」
「まかれちまった。でも方向は覚えている。道しるべも置いて来た」
「これは一度行ってみないと」
私達は次の目標を大荒野の奥に定めました。
大荒野は予想以上に厳しい所でした。
絶え間なく襲い掛かってくる魔獣。
夜になると湧いてくる不浄な者。
水場さえない過酷な環境。
でも私は遂に湖に到着したのです。
しかし、隊商はピピデの民に取り囲まれました。
「ここはピピデの民の土地だ。立ち去れ」
「私は商人です。商売をしにきました」
「長老どうします?」
「俺はランドルフだ。商売とやらは許可しても良い。まずは水の料金を払え」
「分かりました。お支払いいたします」
水は場所によっては貴重品です。
大荒野を旅するとそのありがたさが良く分かります。
それにしても、質の良い水です。
酒を造ったらさぞ美味いでしょう。
「水の料金は大負けで金貨百枚だ」
「ご無体な」
「この水はな聖水だぞ」
「えっ、そんな馬鹿な」
湖が全て聖水などという馬鹿げた事があるはずありません。
でも、冗談を言っている風にはとても見えないです。
商談に明け暮れた私が判断するのですから、間違いありません。
「いくら樽に汲もうが金貨百枚だぞ。お得だと思うがな」
「樽を売って下さい」
「木の樽は売れないな。売るとしたら素焼きの瓶か、鉄の容器だな」
「では素焼きの瓶を。野菜を持ってきているのですが」
ピピデの民から失笑がこぼれる。
やっぱりです。
野菜を作っているに違いありません。
「撤回します。農具はどうでしょう」
「それは欲しいな。ところで素焼きの瓶は幾つ用意したら良い?」
「では百ほど」
「馬車に積めないだろう」
「問題ありません。収納の魔法がありますので。アイテムボックス」
鉄製の農具が現れます。
今度はピピデの民から感嘆の声が漏れた。
侮られると商売は楽ですが、そういう相手は短期の取引相手です。
長期に取引する場合こちらの実力も分かって頂かないと。
商談は進みアイテムボックス一杯の聖水を仕入れる事が出来ました。
ふと、目の端に大木が映りました。
かなり遠いですが、樹に間違いないです。
湖の水を使って樹を育てているのかも知れません。
ここはお宝の匂いがプンプンします。
「忠告しておく。これより先には進まない事だな。進んだら命は無いものと思え」
「分かりますよ。湖の水を使って野菜を育てているのでしょう」
「そんな所だ」
ランドルフの目が何か隠していると囁きます。
水源は奥にも沢山あるのかも知れません。
ならば、次は鉄器を仕入れてきましょうか。
金属製品なら安値で仕入れられます。
野菜を売ってもらえるのなら、木材と釣り合うのですが。
まずは関係の構築ですね。
今は馬車三台ですが、次に来る時は六台に増やしましょう。
樽も沢山用意しないといけません。
帰り道。
精霊が空を飛んでいるのを見ました。
これは吉兆に違いありません。
さて、聖水は何に加工しましょうか。
ポーションはどうでしょうか。
いやアンデッドに対する切り札に使うべきでしょうか。
野菜を育てるのに使いましょうか。
夢が広がります。
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