第5話 現地人と会う

 昨日、降った雨の影響だろうか。

 俺達が住んでいる場所に一面、雑草が生えている。

 荒野だったのに雨が降ると一日で草の絨毯なのだな。


「わぷ」


 精霊が一人居る。

 あれ、見たことない精霊だ。


「雑草から産まれた精霊やな」


 ここは聖域って言ってたからな。

 精霊の一人も生まれるだろう。


「ところでステイニー、お前達は誰でもいいのか?」

「そんな訳あるかい! 植物に愛情を持っている人でないとあかん。愛してくれる人でないと勘弁や」

「そうか。それを聞いてなんか安心した。俺になにも魅力がないのだったら、がっくり来てたところだ」

「そろそろジャガイモの大精霊が産まれる頃や」


 俺達五人はジャガイモの樹の根元に集まった。

 地面がぼやっと光り、土の中から茶色のドレスを纏った女子が現れた。

 【名前ジェネレータ】オン。


「君の名はキャロリアだ」

「私、キャロリア。よろしくね」

「魔法属性はなんだ」

「土魔法です」


「さっそくで悪いが眷族を作ろう」


 俺はジャガイモの種芋を一つ植える。

 キャロリアが手をかざすとジャガイモはもの凄い勢いで育っていった。


 そして、地面の中から幼稚園児ぐらいの眷属が現れる。


「「ジャガ」」

「ジャガ、ジャガ」

「「「ジャガ」」」


「土の浄化を頼みます」

「「「「「ジャガー!」」」」」


 精霊達は地面に潜って姿を消した。

 おや、四足の獣に乗って誰か来るな。

 気づいたら大精霊達も居なくなっている。


「こんにちは」

「こんにちは」


 獣の乗っていたのは片目に傷のある中年の男だった。

 俺は油断なく身構える。


「こんな所になんの用だ!」

「なに、大木が見えたのでな。低木以外が生えるなど考えられん」

「大木があるならどうするんだ?」

「これは精霊の樹だろう。拝むのさ。ピピデの民の悲願を果たしてくれと」

「悲願?」

「戦乱で失われた緑の大地を取り戻してくれというのが悲願だ」

「ここは元は草原や森だったとでも言うのか?」

「そうだ。緑豊かな地だった」


「なぜ?」

「戦乱が起こると魔力が負の感情で汚染される。汚染が進むと精霊が減る。精霊が減ると緑の大地が減る。そうすると残された緑の地を奪い合って更に戦乱が起こる。こんな具合さ」

「愚かだな」

「そう愚かだ。愚かさに気づいた時にはもう遅い。手遅れさ」

「大精霊はもう殆んどいないのか?」

「ああ、見ないな」

「死んだのか?」

「死にはしない。大精霊は不死だ。清浄な魔力さえあれば幾らでも復活する」

「あんたは良い人みたいだ。是非、精霊の樹を拝んでいってくれ」

「頼みがある。ここは草木が生えるのだろう。野菜や果物を売って欲しい」

「対価に何を提供できる」

「金貨」

「金貨は要らないな」


「では魔獣の毛皮ではどうだ」

「魔獣って馬鹿でかい虎のような奴か」

「エレファントタイガーだろ。倒したのか?」

「精霊が倒した」

「そうかあんたには精霊の加護があるのだな」

「そうみたいだな。毛皮は欲しいな。それと肉もだ」

「野菜の見本が欲しい」


 昨日収穫したきゅうりを渡した。

 男は眺めた後に齧ろうとしたので止めた。


「味噌をつけると美味いぞ」

「おう、ありがとよ」


 男はきゅうりに味噌を塗りかじった。


「おおおおお!」


 地球産の野菜は毒なんて事じゃないだろうな。


「何っ、毒でも入っていたか?」

「違う、清浄な魔力に酔っていた。エクストラヒール」


 男が魔法を発動し片目の傷はすっかり癒えていた。


「回復魔法が使えるなんて羨ましいな」

「俺はあんたが羨ましい。清浄な魔力に溢れている野菜がいつでも食えるのだからな」

「そんなもんかな」

「知らないようだから、教えてやるよ。回復魔法を使うには清浄な魔力が必要なんだ。今それはもの凄い貴重品だ」

「それは大変だ。ここに盗賊とかが攻めて来るぞ」

「安心しろ。ピピデの民が全力で守る。元は俺達の土地だからな」


 信用して良いのだろうか。

 みんなと相談したい。


「少し考えてもいいか?」

「ああ、今日はお参りしたら帰る」


  ◆◆◆


 男を野菜の樹に連れて行く。

 男が両手を組み合わせて祈り野菜の樹に手を置くと、樹が光った。


「驚いた。俺の負の魔力がすっかり消えている」

「俺はここから出た事がないんだ。魔力について教えてくれるか?」

「いいぜ、魔力には正と負の魔力がある。正の魔力は清浄な魔力と呼ばれ、回復魔法には必須だ」

「清浄な魔力では攻撃はできないのか?」

「いいや清浄な魔力は呪いを除いた全ての魔法が使える。負の魔力は攻撃と呪いだな」

「なるほど」

「それから魔獣を食べると負の魔力が溜まり易い。昔は清浄な魔力溢れる野菜で浄化していたのだがな」

「負の魔力が溜まりすぎると身体に悪そうだな」

「ああ、病気になったり狂ったりする」


「魔獣ってのはなんだ?」

「野生の獣が負の魔力にさらされると突然変異して魔獣になる。やつら揃いも揃って凶暴だ」


「召喚魔法について聞きたい」

「こんな所にいて耳が早いな。大国が最終兵器を召喚しようとして失敗したという話だ」

「失敗の原因は?」

「おそらく召喚しようとした人間は身ごもっていたのだろう。もしくは肌を合わせていたのだろう」

「どういうことだ」

「一人を召喚のターゲットに選んで、二人が召喚されて魔法が狂ったって事さ」

「魔法がない世界の人間でも召喚されれば魔法が使えるのか?」

「召喚の魔法陣には、魔力の器を限界まで拡張する機能が盛り込まれているという噂だぜ」


「魔力の器ってのはどうやったら大きく出来るんだ」

「普通は増えん。魔法で無理やり大きくすると寿命が一年ぐらいになるらしい」

「そうか。いろいろ教えてくれて、ありがとうな。俺はピピデの民を受け入れるよ。あんたに精霊は祝福を与えた。それを信じる。俺はシゲルだ」

「俺はランドルフだ。今度は一族を連れてくる」


「お土産に野菜ありったけ持っていってくれ」


 俺が野菜を渡すとランドルフは何度も頭を下げた。

 そして、壺に野菜を入れ始める。

 壺には塩らしき物が敷き詰められていた。

 そうやって持ち帰るのだな。

 魔力は新鮮さとは別物らしい。


「世話になった。この恩は一生忘れない」


 俺は色々と危ないところだったのだな。

 召喚が失敗したのは野菜の苗を持っていたからだ。

 そうに違いない。

 魔力増えないのか。

 がっくりだ。

 さてと急いで畑を広げないと。

 養う人数が増えるからな。

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