第6話 終わり行く世界と復活の兆し

Side:ランドルフ


「ここも駄目か」


 俺はランドルフ、ピピデの民の最長老だ。

 まだ35歳だというのに最長老。

 昔はこんなのじゃなかったという思いがこみ上げる。

 手に取った麦が枯れていた。

 精霊が居なくなるとこんなにも作物が育たないなんて、二十年前に戻って各国の首脳陣に警告したい。


  ◆◆◆


「帰ったぞ」

「あなた、畑はどうでしたか」


 帰った俺を妻が出迎える。


「だめだ。一割しか生き残っていない」

「そんな、もうこの世界は終わりなのでしょうか」

「そんな顔をするな。大国に吸収されれば生き残れる」

「でも奴隷待遇なのでしょう……」

「仕方ない生き延びるためだ」


  ◆◆◆


「父さん、また魔獣の肉ですか」

「黙って食え。これしか食料がないんだ」

「清浄な魔力さえあれば、綺麗な水も出せるのに。そうすれば質の良い野菜が育てられるのに」


 負の魔力で出した水は毒か酸でとても畑にはけない。

 息子の不満も分かる。

 清浄な魔力さえあれば俺の片目も見えるようになるのに。


 口数少ない家族の食卓が終わった。


「聞いてくれ。俺は大荒野の奥深くに踏み入る」

「父さん、正気か。自殺行為だよ」

「あなた、もう決めたのですね」


「奥地で、もしかしたら精霊が復活しているかも知れない。それを探しに行く」

「そんな夢物語を」

「たぶん俺の体は一年と持たない。負の魔力が溜まりすぎたんだ」


 魔法を使っても魔力はほとんど減らない減ったように見えるだけだ。

 魔法を使うと精神力が減って把握している魔力が減るだけだ。

 把握していない魔力は魔法に使えないだけで、体から離れない。

 精神力が回復するまでずっと体の中にある。


 魔法を使うと魔力が魔法を形作る。

 魔法が終わると魔力がほんの少し消費され、大部分はまた身体に戻ってくる。

 魔法を使えば使うほど負の魔力が大幅に減れば良いのに。


 俺は騎獣のラクーに日用品を積んで旅の準備をした。

 一族は旅の為に貴重な野菜を俺に持たせてくれた。

 ありがたい事だ。


「これからは、お前が母さんを守れ。たのんだぞ」

「分かったよ、父さん」


 息子に別れの言葉を継げて振り返らずにラクーの腹を蹴る。


  ◆◆◆


 何日もかけてかなり奥地だと思われる所にきた。

 ちらっと空を飛ぶ幼児の姿が見える。

 精霊だ。

 復活していたんだ。

 二度見するとその姿はもうなかった。


「俺もとうとう幻覚が見えるようになったか」


 何となく精霊が飛んで来たと思われる方向に行く。

 野菜の塩漬けを食べて清浄な魔力を取り込む事にした。

 そして、負の魔力を浄化するよう意識する。

 いくぶん負の魔力減った。

 これで何日かは生き延びられる。


 それから二日後俺は遂にやり遂げた。

 精霊の樹を見つけたのだ。

 ラクーを駆けさせたい衝動を押さえゆっくりと近づく。

 男が一人待ち構えていた。

 話をして俺の一族はここに来ても良い事になった。

 体がもの凄く軽い。

 今なら飛んで帰れそうだ。

 俺はラクーの腹を蹴り、帰路を急がせた。


Side:ファルティナ


 またハズレか。

 召喚された人間にはかわいそうだが、戦場で使い潰され終わった。

 召喚された人間が反逆してこの世界を統一。

 争いのない世界を実現と考えたが上手く事が運ばなかった。

 一騎当千クラスはいるが万を相手取るほどの人材は居ない。

 万を相手取る人間でなければ国を相手にはできないからな。


 次の召喚に期待するか。


  ◆◆◆


 今度の召喚は失敗か。

 どこに飛ばされたのやら。

 召喚された者は野垂れ死にだろう。


 むっ、この気配は大精霊。

 なんと大精霊が生み出された。

 行って祝福せねば。


 現場に行って驚いた。

 大精霊が三人も生まれていた。

 この男見込みがある。

 異世界から植物の苗を持ち込むとこんな結果になるとはな。

 召喚をする国も魔法陣を書き換えて植物限定にすれば良いのに。

 神界の決まりで干渉できないのが恨めしい。


 良い事を考えた。

 大精霊を産みだした褒美を与えることは出来る。

 私の神力でスキルに細工してやろう。

 くふふ、男を異世界から苗を召喚する道具にしてやった。

 許せよ。

 私も多くない神力を貸し与えているのだから。


  ◆◆◆


 おや、お楽しみの最中か。

 良い事だ。

 妖精が絶滅してから久しい。

 精霊と妖精が増えるのも時間の問題だ。

 先が実に楽しみだな。

 おっと呼ばれている。


 そうかもっとしたいか。

 普通の精霊を数多く産みだした事だし、褒美に絶倫をつけてやろう。

 活躍しだいではもっと力を分け与えても構わないな。

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