第3話 眷属を作る

「俺が言うのもなんなんだけど。俺でいいのか?」


 俺は朝、隣に寝ているエーヴリンに話し掛けた。


「野菜達よ、俺の分まで元気に生きてくれって言われて、きゅんときちゃったの」

「日本語が分かるのか?」

「はい、なの。私達を汗だくで植える時に、一秒で長く生きてくれって言ってたの。自分の事より私達を優先する心意気に打たれたの」

「そうか、きゅんときちゃたのか。なら仕方ないな」

「ええ、それに前世では結婚できなかったから、子供がほしいの。植物の本能は産めよ、増えよ、地に満ちよなの」

「げっ、赤ん坊できるのか。こうしちゃいられん準備しなくちゃ」

「慌てない、慌てないの。まだ大丈夫なの」

「だって植物の受粉率はものすごく高い」

「植物といっても精霊だからなの」


「そんな知識どこで覚えたんだ」

「女神様に頂いたの」


 セックスしろだなんて、あの女神ぃ。

 余計な知識を植え付けやがって。


 昨日買った保存食を食べてみんなの所へ行くとステイニーとジョセアラの顔が赤い。

 こいつら覗いていたのか。

 そりゃあ、ビニールハウスだもんな。

 姿も声も丸分かりだ。


 昨日植えた鷹の爪はやはり大木になっていた。

 中央に真っ赤な唐辛子をぶら下げている。


 唐辛子が光ると中からほっそりとした真っ赤な女の子が出てきた。

 ドレスも赤けりゃ髪も赤い。

 そして、肌の白さが際立っていた。

 アクセントは緑色のチューリップハットだ。

 【名前ジェネレータ】オン。


「誕生おめでとう。君の名前はエリザドラだ」

「エリザドラ気にいった」

「さっそくだけど。魔法の属性は?」

「火魔法」

「おっしゃあー!」


 エーヴリンにわき腹をつねられた。

 嫉妬するなよ。


「エーヴリンの水魔法も役に立っているよ。ありがと」

「くふっ、えへへなの」


 機嫌が直ったようで良かった。

 と思ったらステイニーとジョセアラが面白くなさそう。


「綿と皿と箸はありがたく使っているよ」

「いまさらおそいんや」

「うれしいなんて思っていないんだから」


 二人の機嫌も直ったようだ。


「みんな、俺はこれからどうしたら良いと思う」

「嫌でなければ眷属を増やして下さいなの」


 それはセックスのお誘いか。

 朝から大胆だな。


「えっと、こほん。夜になったらな」

「おっさん、エッチな想像してるやん」

「あの、眷属を増やすのはきゅうりの苗を取り寄せて植えて頂ければいいの」

「あっ、そんな事でいいのか?」


 【サケタの種】オン。

 きゅうりの苗498円なり。


「これでいいの?」

「ええ、植えて下さいの」


 きゅうりの苗を丁寧に植えた。

 エーヴリンが苗に手をかざすと、苗はつるを伸ばし緑の塔を作っていく。

 1メートルほどの実が十個程生って中から幼稚園児ぐらいの精霊が現れた。

 そして緑の塔が枯れ落ちた。


「「うりー」」

「うりうり」

「「「うり」」」


 エーヴリンがうんうんとうなずいている。


「さあ、お行きなの。この地を浄化するの」


 精霊は空を飛んで行き、やがて見えなくなった。


「もしかして、きゅうりの苗を植えても大精霊はもう産まれないのか」

「ええ、植物一種類につき大精霊一人ですの」


 大精霊を増やすなら違う品種を植えないといけないのか。

 苗って食料に比べれば安いから余裕だ。


「精霊を増やす為に、ぱーっと百本ぐらい植えるか」

「それがそうも行かないの。苗を植えても普通に実がなるだけなの。ごくまれに精霊は産まれるの」

「不思議パワーが必要な訳ね」

「ええ、一日一回が限度なの」


「じゃあ、ナスとゴーヤと唐辛子の苗一本ずつ」


 苗を植えると皆が不思議パワーを注いで精霊が産まれた。


「「「「「なす、なす」」」」」

「「「「ごや」」」」

「「「「からから」」」」


 幼稚園児ぐらいの精霊の大合唱になった。


「あんじょうきばってや」

「お行きなさい」

「行って」


 精霊が旅立つ。

 そういえばエッチして出来る子供は精霊ではないのか。

 聞きづらいが、思い切って。


「俺達の子供は精霊ではないのか」

「はい、妖精になるの」

「妖精っていうと羽が生えて小さいのか」

「いいえ、人間大の耳が長い人種になるの」


 ああ、分かった。

 エルフ的な奴ね。


 一仕事終えた後はお楽しみタイムだ。

 から揚げ二人前1,680円をチョイスだ。

 さば缶の空き缶にから揚げを入れて準備完了。


「さあ、やってくれ」

「プチファイヤー」


 エリザドラの火魔法でから揚げが温められ香ばしい匂いを上げた。


「はふはふ、少ないけどみんなも食べて」

「美味しいですの」

「わりかし普通やん」

「くっ、美味しいなんて思うとは、負けた気分ですわ」

「美味しい、お替り」


 よし、デザートにリンゴ一箱だ。

 一番、割安なのを買った。


「リンゴならお替りしてもいいぞ」

「甘いの」

「そうなんだよ傷ありだが美味いんだ」


「まあまあ、やわ」

「くっ、またまた負けましたわ」

「シャク、シャク」


 女神の奴、給料上げてくれないかな。

 とても四人は養えない。


「すまないな。おやつ程度しか食わせて上げられなくて」

甲斐性かいしょうのない男ね」

「よし、目標を決めた。現地人との交流だ。これを目指す」


 精霊を産みだした野菜の木はやはり枯れている。

 大精霊の木はまだみずみずしいな。

 役目を終えていないってことなのだな。


 俺は鍬を買って、土を掘り返し、肥料を撒いた。

 いつかここが緑の大地になる事を想像しながら。

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