カニカマ


 昨日の晩御飯は冷麺だった。

 麺を茹でながらトッピングを切っていく。千切りキュウリと薄焼卵を千切りしたもの、ハムの代わりに解したカニカマ、シーチキン。(ハムは亜硝酸塩を含まないものを探すのが至難の業で我が家ではハムは買わない)


 お酢と醤油と砂糖でタレを作り、鍋の麺を菜箸でぐるぐる回し、麺が底に引っ付かないように混ぜていると、学童から娘が帰宅した。


「ただいまー」

「おかえりー」

「手洗いなよ」

「うん」


 台所でさっと手を洗う娘の目がキラリン。


「今日何?」

「冷麺」

「やった」

「好き?」

「うん、好き」


 我が子には嫌いなものがほぼない。食べたくないというのはゴーヤチャンプルとコリアンダーぐらいだ。苦いものや極端に臭いものは大人でも好き嫌いが出てくる。

 これは食べられない、あれは嫌いというものがないから食卓にはいろんな種類の食事を並べられるし、好き嫌いを考慮した献立を立てる必要がないから助かる。なんでも好きだが最近大好きと言っているのはカニカマだ。


 小腹が減った時に一本、二本、とおやつとして食べているカニカマ。今日はトッピング用に解してあったが学校帰りでお腹が減っていたのだろう手が伸びた。


「あっ」


 鍋を見ている隙からカニカマを一筋盗まれた。


 知らんぷりをしてランドセルを開ける娘。ノートを取り出してまたキッチンに来た。


「ねぇ、それは何してるの?」

「これは麺がくっつかないように混ぜてるの」

「ふーん」


 そう言いながらノートで壁を作り、自分の手元を隠しこっそりとまた一筋のカニカマをくすねていった。


 くすねたのを見られていないと思っていないわけではなさそうだが、分からないフリをする。盗みに成功した娘はくすくすとほくそ笑んでいた。可愛いから許そう。


 するとそれを見ていた相方もやって来た。横で余って冷凍していた餃子を副菜にとジュージュー焼いていたのだが「焦げてるんじゃない?」とフライパンを指差した。


「え、そんな事ないよ?」


 餃子の裏を少し確認するフリをする。僕の目線がフライパンに移ると娘と同じくカニカマを一筋くすねていった。


 チラリと見遣り笑ってしまう。なんだこの可愛い親子は。


 それからまた娘がやってくる。ノートでカニカマを盛っている皿を隠し、わざとらしく話しかけて、一筋くすねてモグモグ。交代で再び相方。今度は何も言わずホレホレとフライパンを指差し、くすねて去っていく。


 クスクスクスと三人が笑い、娘は相方に向かって野球の審判がする「セーフ」の動きを真似た。相方も同じく「セーフ」と手を動かす。


「セーフじゃねぇし。ばれてるし」


 そう言ったのに、また娘はやってきてカニカマをくすね、相方に誇らしげに「セーフ」の所作をした。


 僕たち三人はガハハと笑った。カニカマは随分少なめになったけどこの瞬間が愛おしかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る