第5話 蒼の魔術師

 俺のスキルには「極位魔法(氷)」という物があるのだが、これは名前の通り氷属性の魔法が得意だということだ。

 この世界の魔法はスキルによって「火・水・風・土・雷・氷・聖・無」の8属性に分類されており、それぞれに得意不得意があるのだが魔法自体がかなり自由なものなので、例えばAという魔法をどの属性に分類するかは雰囲気で決めて、どうしても分類できないものは無属性行きとなるらしい。

 さらに言えば魔法は8属性だと言ったが、例外的に魔術と呼ばれる物がいくつかある。

 魔術は「死霊術」「錬金術」「調教術」の3つがあって、俺は死霊術のスキルを持っている。

 ”魔法の外側にある魔法”とも呼ばれる魔術は基本的にレアすぎる上に能力が悪用されると手に負えなくなるようなものが多いため忌避されてもいる。

 死霊術とか字面からして禍々しいが能力自体も「死」を扱うことから3つの中でも最も嫌われている。

 そんな嫌われスキルだが俺の氷属性の魔法と非常に相性がいい。

 死霊術の中に「降霊」があるのだが、これはその辺に飛び回っている意思無き死霊たちに一時的な体を与えて使役する術で一時的な体を氷で作ってやれば不死の軍勢が作れる、はずなのだ。怖いし場所が無いのでやったこと無いけど……。

 そんな便利な使い方が出来るので騎士団の訓練用に数体死霊入りの氷人形アイスゴーレムを提供する代わりに、近接戦闘の練習相手になってもらっているのだ。


 「『創造 氷人形クリエイト アイスゴーレム』」


防音などの様々な結界が張られた騎士団の実践訓練場に氷の兵士が現れると隊列を組み臨戦態勢の騎士団の人たちから張り詰めた空気が流れてくる感じがする。


「――『集え盟友、再び炎燃やしひと時の生を謳歌せよ』」


呪文を唱えると死霊術師でなくとも見えるほど死霊が集まり、吸い込まれるように人形の中に消えた。

 瞬間ゴーレムの目に光が宿り隊列を組む騎士団の方に走り始めた。


「怯むな!戦闘開始‼」

「「おおおお‼」」


 実戦訓練が始まって30分も経つと練度の低いゴーレム軍団は圧倒され始め、手の空いた騎士団員達が術者である俺の方にも来るようになってきた。


「うおおおおお!」

「『創造 氷の監獄クリエイト アイスプリズン』」

「引けえ!単騎で魔導士に突っ込む馬鹿が何処にいる‼」


とは言えエルケーア団長が言うように騎士が1人で魔導士に突っ込んでも魔法の餌食になるだけなので対魔導士戦の基本は多対一を作る事なのだそうだ。

 1時間もするとゴーレムは掃討され、団員の人たちも突撃陣形を組んでいた。


「『盟友よ還り給え、汝に幸あれ』」


集められた死霊たちを解放して騎士団の方に向き直る。


「――突撃‼」

「「うおおおおおおお‼」」


戦場でこの数の兵士がマジで突っ込んできたら敵前逃亡するね。うん。


「『走れ雷光、轟け雷鳴、穿つは紫電の矢なり》』」

――ドーン!


致死性の低い魔法を極限まで手加減して撃つ。

 直撃はさせなかったが余波で突撃から数人抜けて行った。

 彼我の距離50メートルぐらいで雷の魔法を撃ったが、本来ならこれぐらいの距離に近づけば近接を専門とする騎士団の勝ちは確定なのだそうだ。


(俺も負ける気ないけどね)


「『創造 氷の弾幕クリエイト アイスショット』」

「怯むな!」


瞬時に現れた円錐状の氷に一瞬だけ突撃スピードが落ちるが団長の指示によってふたたび加速した。

 団長は何度も「怯むな」と繰り返すが、対魔導士ではこれが意外と一番大事らしい。自分たちの射程外から絶大な力で圧倒してくる魔導士に対するときに「怯むな」は「無理です!」って感じだろうな。俺なら敵前t(以下略)。

 死人が出る恐れがあるので氷を消してついに騎士団の射程内に俺が収まった。


(ここからが俺の本番よ!)


近距離では逃げる以外に手がほとんどない俺だが、絶望的に体力が無いという欠点もある。

 よって、普段から鍛えている騎士団の人たちの攻撃をしのぎながら逃げる訓練をしているのだ。


「おらあああ!」

「ぬおお『纏え烈風』!」

――ビュー

「まだまだあ!」

「『氷壁』いい!」

――キーン

「待てええこらああ!」

「『駆けよ突風』‼」

――ドーン


……。


 「……疲れた」

「よーし魔導士を討った。我らの勝利だ!」

「「おおおおおおお‼」」


追いつかれ始めて10分ぐらいは詠唱を省略しまくって対応していたがとうとう体力が尽きて、いつの間にか後ろにいたエルケーア団長の手刀を食らった。すごくいたい……。


 「本日の集団戦闘訓練並びに対魔導士戦訓練を終了する」

「ありがとうございました」

「蒼殿に敬礼!」


解散の号令がかかると俺はその場で座り込み、団長に担ぎ上げられて食堂に向かった。


 「流石蒼殿ですね!」

「どうもどうも」


震える膝を押さえつけながら騎士団の人たちとご飯を食べる。先ほどの訓練には参加していなかった人たちもいるので食堂はほぼパンク状態だ。


「まさか10分もしのがれるとは思いませんでしたよ」

「俺たちもまだまだってことだろ」

「違いねえな」

「「ガハハハハ‼」」

(暑苦しいー)


THE・体育会系の人たちなので基本テンションが高い。陰キャには少々きつい……。


「蒼殿は通り名があっても不思議じゃないぐらいですな!」

「通り名ねえ」

「我々が考えましょう!」

「え?」


何を勝手に?


「いいな!何がいいか!」

「ちょっと?」

「蒼殿だから蒼のナントカがいいよな」

「ねえ?」

「蒼の魔導士なんてどうだ?」

「ん?無視?」

「それより蒼の魔術師の方がいいだろう」

「魔術師はまずいんじゃないか?」

「魔術師はただのスキルの総称だ。そもそも蒼殿は魔導士なんて器じゃあ収まらんだろう!」

「すみませーん」

「確かにそうだな」

「蒼の魔術師だ‼」

「蒼の魔術師‼」


ああ……。ダメだこれは。俺は蒼の魔術師を名乗って生きていくしかなさそうだ。秘めし厨二心がくすぐられるな。

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