第4話 始まる異世界監視生活
カーテンの隙間から朝日が飛び込んでくる。
顔を直撃するように絶妙に開き具合を調整されたカーテンは寝るときちゃんと閉めたはずなのに……。おかしいね。
「――んんん」
「やっと起きたのね、蒼。もうご飯は用意できているわよ」
「次からは日光じゃない方法で起こしてほしいと言ってるはずなんだけど……」
「知らないわ。そんな優しさは朱音にでも求めなさい」
強烈かつ自分では手を下さずに俺を起こしたのは田舎の高校生ではまず見る機会が無い銀色の髪を持つ美少女だった。
突如召喚されたあの日から1週間が経った。
こちらでの生活拠点として王宮の近くにある空き屋敷を下賜されたのだがここからが問題だった。
屋敷と言うのは半端じゃないぐらい大きくて、部屋数も2ケタはあるのでどうしても使用人さんを雇う必要があった。
蒼様と呼ばれることが慣れない上に身の回りの世話を中々美人なメイドさん達にしてもらうというお年頃の男の子には刺激強めな生活が始まった。そこまでは何とかなる。我慢すればいいから。
1番の問題は俺を起こしに来た銀髪の美少女である。
彼女はヘシセル・フォン・ゲルトラキ第一王女、そう、王女なのである。
あの日宝物庫から渋々ナイフをあきらめて出たとき、タイミング悪く剣の修行を終えたヘシセルが自室に移動中でばったり出くわした。
世間には広まっていない神影宗徒の存在だが王家や憲兵の間ではそこそこ情報が平がっているらしく、ヘシセルも例にもれず奴らが異世界からレアスキルを持った人間を召喚する技術を持っていることを知っていたので俺たち2人が召喚者であることはすぐに理解された。
ここから地獄が始まった。
ヘシセルは初めましての俺をかなりお気に召したらしく自分から俺の剣術指南役を買って出た。
しかし俺は剣が握れないので丁重にお断りしたところかなり怒らせてしまった。
代替案として朱里の指南役になってもらったのだがスキル「大英雄」持ちの朱里は素人ながら持ち前の運動神経でヘシセルといい勝負をしてしまった。
そんなことがあって俺たち2人は完全に王女様にマークされてしまい、朝は王宮からわざわざ俺を起こしに来るのだ。迷惑な……。
「蒼は本当に朝が弱いわね」
「朱里とお前が強すぎるだけだ。普通は起床後3秒で窓全開で冬の外気を布団の中に送り込まれることなんてないから」
「フフフ、あの時の反応は思い出しただけで笑えてくるわよ」
(S極の匂いがするなあ……)
眠たい目をこすりながらヘシセルに連れられてリビングに向かうと朝のランニングを終えたであろう朱里が玄関から入ってきた。
「おはよう朱里」
「おはよう、王女殿下もおはようございます」
「おはよう、貴方は蒼と違って朝から元気よね」
「蒼も一緒に走ればいいのにと思っているんですがね」
「断じて断る」
何も知らない人が見れば両手に花とはまさにこのことなのだろうが当の本人にしてみれば地獄の具現化だ。
「さて、今日も張り切って試験勉強よ!」
「おおー!」
「2人で頑張ってくれ」
「……私よりもすでにできるから何とも言えないわね」
非常においしい朝ご飯を食べながらヘシセルと朱里は間近に控えるとある試験への対策を頑張っている。俺も3日前ぐらいまで頑張っていた。
ある試験とは王都にある王立のウレートフ高等学院の入学試験で、この学院はヘシセルが受ける予定の学院だ。
ヘシセルは俺たち2人と手の届く範囲にどうしても置いておきたいらしく、召喚された翌日にはこの学院を勧められた。
俺はどっちでもよかったし朱里はヘシセルと意気投合してノリノリだったのですぐに俺たちの受検も決まった。
受験が決まったとなれば勉強しないといけないのだがそれもすぐに終わった。
筆記試験と実技試験があるのだが、筆記試験は中学生なら問題なく解けるような問題やこの世界の歴史や一般常識を問う問題でそんなに頭を悩ませる問題ではない。はずなのだが朱里とヘシセルはここ数日一緒に頭を悩ませている。おバカキャラ2人はきついぜ……。
そんな流れがあって今日の予定は2人は筆記勉強、俺は1人実技練習となった。
朝ご飯を食べ終わっておバカ組を見送るとムヴィアさ…王様からもらったローブを着て王宮騎士団の道場に向かった。
「おはようございます」
「おお、蒼殿。ごそくろうご足労いただきありがとうございます」
「いえいえ。早速始めましょうか?」
「分かりました。全員集合!」
既に訓練が始まっていた道場の中でエルケーア・バール騎士団長に声をかけると訓練は一時中止となり訓練中の30人ぐらいが俺の前にずらっと整列した。
「本日も蒼殿の協力ものと集団戦闘訓練並びに対魔導士戦訓練を実施する。各自全力を尽くせ」
「「ラジャー‼」」
「よろしくお願いします」
さて、俺のターンといこう。
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