第3話 遠距離特化と近接特化な2人

 よくよく観察すると不気味に光っている感じもする水晶玉に意を決して触れると手の甲にある紋章から大量の文字が浮かび上がってきた。


「ほおー、すごいな」

「……これは、すごいですよ」


大量の文字を写し取り終わると護衛の中でもフード―王宮魔導士団の人たちが写し取った紙を見ながら唸っていた。


 「朱里の方もすごいな」

「ええ、すごいです……」


朱里のスキルを写し取った紙も護衛の中でも騎士風の人たちが唸りながら眺めていた。


「(どうしたんだろう……)」

「(ありがちな流れだとすごいスキルが出てきたとかだろうけど)」


自分で確認した感じ特別な感じの「勇者の○○」や「賢者」みたいなものは無かった。

 しばらく経つと思い出したように俺たちにも写し取った紙を見せてくれた。

 自分のスキルをザッと見た感じ「上位魔法(○○)」とか「魔力増強・大」とか魔法に関係しそうなスキルが並んでおり、朱里よりもスキルの数が多いようだ。

 

「ふーん。魔法系ばっかりだな」

「私のは剣とか槍とかばっかりだよ」

「「そうなんです!!」」


朱里と紙を交換しようとすると護衛の人たちが急に大声を上げた。ナニナニ?ビックリするよ?


「お二人のスキルはかなり偏りがあるんです!」

「蒼様は魔法に加えて遠距離からの立ち回りに適したスキルですし朱里様は剣や槍と言った近距離での立ち回りに適したスキルが集中しているんです!」

「「はあ……」」


何をそんなに興奮しているのかをさらに聞いていくと、経験を積んでいく過程で魔導士が遠距離攻撃に適したスキルを習得しがちなので結果として俺のスキル構成に近くなることはあるらしいのだが、それでも遠距離・近距離で俺たちほど極振りしている例はほとんどないそうだ。


「――しかも、蒼様は「極位魔法」、朱里様は「大英雄」という超レアなスキルをお持ちなのです‼」

「な、なるほど」


かなり熱く語るのでもう一度スキルを確認してみると確かに「極位魔法(氷)」とある。

 極位魔法とは上位魔法よりもレア度の高いスキルだそうで、朱里の大英雄と並んでここ数百年現れていないらしい。

 しかも氷属性での極位魔法は史上初かもしれないということだ。


(なんだかチーターみたいだなあ)


 いつの間にか席を外していたムヴィアさんが部屋に帰って来て熱くレアスキルがどれほどすごいのかを語る護衛の人を下がらせて俺たちを別室に案内してくれた。

 歩きながらも熱く語ってくる護衛の人たちの話を聞きながらしばらく進むと厳重な警備が敷かれている部屋の前で立ち止まった。

 かなり重厚感のある扉を2人がかりで開けるとさらに扉があり、それも開けるとそこには数々の財宝が保管されていた。


「こいつはすげえな……」

「これが我が王家が保管する財宝だ」


部屋には壁を埋め尽くすほど剣や槍が並べられ、展示ケースのような透明な箱にはいかにも高そうな防具や服が保管されていた。


「ここから数点持ち出しを許可しよう」

「本当ですか‼」

「ああ、これぐらいしかお前たちにしてやれないのが歯がゆいがな……」


なるほど王家からの罪滅ぼし的な感じか。そんなに深く気にするようなことではないと俺は思っているのでこの財宝の山から好きな物を持って行っていいというのはむしろご褒美だな。

 早速朱里と部屋の中を物色して「これだ!」という物を探し始めた。


「やっぱり剣はもっといた方が良いよね?」

「そりゃそうだろ。剣とか槍とかのスキルだらけなんだから」


ゲームの中でしか見たことのない風景に男の子の血が騒ぐが周りの目もあるのでグッと我慢する。本当は飛び跳ねて試し振りとかしてみたい。

 しばらく物色した結果俺は紺青色(だと思う)のフード付きのローブと短弓、魔法を使うのに媒体として必要だというので特殊な宝石でできたピアスを選んだ。名前が蒼なので青系の色でまとめてみた。

 朱里の方も赤系の色でまとめたようで、赤い鞘の直剣と穂が赤い直槍、赤い軽装の鎧そして剣と槍を別空間にしまっておけるという魔道具なるものを選んだようだ。


「蒼は剣持たないの?」

「近接非力なモヤシだけど?」

「卑屈すぎでしょ……。護身用のナイフぐらい貰っておけば?」

「なるほど」


確かに一理ある。いくら遠距離専門と言っても護身用ナイフぐらいは持っていてもいいかもしれない。


「となると……これでいいか」


パッと目に入った刀身の黒いナイフに手を伸ばした瞬間だった。


――バチッ‼

「痛いっ⁈」


謎の力に阻まれて手が柄から引きはがされた。


「何してんの?」

「いや。触れないんだけど……」

「「???」」


朱里もムヴィアさんも護衛の人も総じて「何を言っているんだこいつは」という目で見てくるが確かに俺の手は謎の力で吹き飛ばされたのだ。

 しばらくその部屋にいた人全員の不審者を見るような目を耐えながら考えていると一つの考えに至った。


「朱里。この弓持ってみ」

「何で?」

――バチッ‼

「って、痛いんですけど⁉」

(やはりか……)


 遠距離専門の俺がナイフを持てない。

 近距離専門の朱里が弓を持てない。

 つまり……


「持てる物に制限がかかってるんだな」

「「はあ?」」


チート生活は簡単にはいかないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る