第2話 触れる異世界

 「私がゲルトラキ王国第七代国王ムヴィア・フォン・ゲルトラキだ」

「神野朱里です」

「月森蒼だ。よろしく」


朱里が丁寧に出たので試しに高圧的に出てみたが周りの護衛風の人たちが若干ソワソワしただけでムヴィアさん本人は大して気にしていないようだ。


「朱里に蒼か。改めてようこそ、そして急な召喚大変申し訳なかった」

「いえいえ。何もされてないですし、謝ることは、無い、よね?」

「何で俺に聞くんだよ」


格好つけるなら最後までイケメンでいてほしかった……。


「敢えて言うなら帰れるかどうかの説明が無いことは攻めるポイントだな」

「それは……」

「なるほど、残念ながら帰れないらしいぞ朱里」

「それは大変だね。泊まれる場所を探さないと」


向こうから「○○が終わったら戻れるから!」的なことを何も言われていないから戻れない、もしくは戻る方法が分からないのだろうと思ったがムヴィアさんの反応的に予想は的中していたようだ。

 いきなり召喚されて元居た世界に戻れないということを知っても騒がない俺たちを不思議がっている顔のムヴィアさん並びに護衛風の人たちは俺たちとおふざけを聞きながら困惑を加速させていった。


 「で?真面目なところ俺たちは何で召喚された?」

「はっ!そうだな、まずはそこから話さねばならないな」


思考が回復したであろうムヴィアさんは王国に限らずこの世界で起きていることについて話し始めた。


「まず、君達とこちらに召喚したのは私たちゲルトラキ王国ではなく、神影宗徒と名乗る集団だ」

「神影宗徒ねえ、地下組織っぽい名前だなあ」

「まさにその通りで奴らは公の組織ではなく強大な武力を保持した国際犯罪組織だ」

「で、そいつらは何で俺らを召喚したんだ?」

「それは分からない。奴らについて分かっていることは今までも何度か異世界とこの世界をつなぎ強力な力を持つ者を召喚しようとしていたということだ」


なるほど、初犯じゃないのか。まあ、戦力増強のために召喚したってところだろうな。


「今までは計画段階で潰していたのだが、今回は奴らのアジトを特定して突入した時にはすでに君達の召喚が始まっていたのだ……」

「何となくわかった。俺たちに王国側から依頼があるわけではないんだな」

「今のところは無い。君達の実力も分からないしな」


それはその通りだな。ここまで俺とムヴィアさんで会話してきたが朱音はちゃんと理解してるんだろうか?そこまでおバカちゃんじゃないよ、ね?

 ザッと現状の説明をし終えるとムヴィアさんは近くにいた護衛の人たちの耳元で何かをささやいて何かを取りに行かせた。


「これから2人には紋章を刻んでもらう」

「紋章ですか?」

「ああ、私も含めて王国の住人はすべて同じ紋章を刻んでいる」

「国籍を表すのか?」

「そういう面もあるが本来の使い方はその人物の能力を把握するために使われる」


話によると異世界っぽくこの世界には「スキル」「レベル」なるものがあるようだ。これから刻まれるという紋章はその人のスキルを読み取る魔法陣らしい。

 スキルは多種多様なようで、「上位魔法(炎)」など練習すれば増えていくスキルもあれば「剣豪」など新しく現れないタイプのスキルもあるらしい。

 レベルに関しては言わずもがなという感じだろうが、自分にもレベルがあるしスキルにもレベルがある。レベルは色々な経験を積むことで自然と上がっていくものらしい。


(ゲームみt――)

「ゲームみたいだね」

「げーむ?」

「はっ⁉な、なんでもないです」


どうして明らかにこっちでは使われなさそうな言葉を使ってしまうのか……。後で釘を刺しておこう。どうせすぐに外れてまた言っちゃうんだろうけどね。

 しばらく経つと先ほど出て行った護衛の人が鉄製の焼きごてを持ってきた。


「どちらからしましょうか?」

「俺からしよう」


たまには格好つけとかないと自分の性別が分からなくなっちゃうからね。時々あるんだよ、俺ってもしかして朱音の彼女なのかな?って思うことが……。

 右手の甲を差し出すと護衛の人が何かをつぶやいてこてを青白く光らせた。


「行きますね。一瞬痛いです」

「痛いの?!」


魔法で何かを印字するだけだろうから無痛だろうと高をくくっていたが痛いらしい。

 どれぐらい痛いのかを確認する前に焼きごては俺の右手の甲にくっつき、当たっている部分全体に傷口に消毒液を掛けたようなしみる痛みが広がった。


「な、るほどねえ……」

「次は朱里様ですね」

「はい。…どれぐらい痛いの?」

「こむら返りぐらい」

「それ結構痛くない⁉」


かなりオーバーに伝えて朱里の不安感を煽ったところで右手の甲を見ると円の中にひし形が描かれた幾何学模様的な紋章があった。

 朱里も同じ模様を刻んでもらい、オーバーに伝えたことを怒られているといつの間にか目の前に水晶が準備されていた。


「その水晶に触れてもらうと与えられたスキルが分かります」

「なるほど」

「ラノベとかでもありがちだね」

「だからどうしてすぐにそういうことを言っちゃうの?」

「らのべ?」

「「何でもないです‼」」


この子はメタい発言をちょくちょく挟まないといけない縛りを自分に設けているのかしら……。

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