みんなが同時に気絶するなんて、政府の陰謀にちがいない!

ちびまるフォイ

そのとき ふしぎなことが おこった!

消失時間が近くなると、近所にはほたるの光が流れてくる。

そのBGM流しながら放送が流れてくる。


『もうすぐ午後10時になります。

 外を歩いている人は家に帰りましょう』


午後10時になると強力な電磁波が発生し、すべての生物はその場に気絶する。

そして次の日に目が覚める。


強制ブラックオフが実施されてからもう半年を過ぎていた。


「……というわけで、これは政府の陰謀だと思うんだ」


「またその話かよ」


大学の食堂で俺はブラックオフについての陰謀説を熱弁した。

友人は冷ややかな顔で聞き流していた。


「全人類を気絶させて都合の悪い人間を選別し、処分しているにちがいない!

 一部の人間が気絶から免れて、ブラックオフした町で暗躍してーー」


「はいストップストップ。もういいよ」


「もういいって……お前は今まさに陰謀による戦争が起きるかもしれないんだぞ!?」


「テレビでもブラックオフは現代人の昼夜逆転生活を改善するためだと言ってただろ?」


「バカ! テレビなんて信じられるか!」

「ネットを盲信するのもどうかと思うけど……」


「ブラックオフで気絶している間に何が起きているか誰もわからない! それが怖いと思わないのか!?」


「別に」

「うそだろ!?」


「どんなに寝付きが悪くでも午後10時には確実に気絶できるし。

 ブラックオフされてから生活も改善されたのは事実だろう。

 どの店も必要以上に開店する必要はないし、いいことづくめだ」


「だから! それは黒幕が甘い汁を吸わせて、本質から目をそむけさせようとする陰謀だ!」


「陰謀陰謀って……仮にそれが事実だとして、そこまで気づいたお前はどうして無事なんだよ」


「それは……奴らにまだ気づかれてないから」


「用意周到な陰謀を仕組んだ奴らに割にめっちゃそこだけ雑じゃん」

「うるせぇ!!」


俺の意見には誰にも耳を傾けてはくれなかった。

地動説を唱えたガリレオも最初は信じてもらえなかったという。


「こうなったら俺が何もかも証明してやる」


俺は町のいたるところに監視カメラを設置した。

ブラックオフで人間も動物も気絶している間に、"奴ら"が動き出すのを暴いてやる。

動かぬ証拠を突きつければ誰もが俺の意見の正しさに気づくはず。


『もうすぐ午後10時になります。

 外を歩いている人は家に帰りましょう』


ブラックオフまでのカウントダウンが始まった。

午後10時に針が到達したとき、気絶して翌朝に目が覚めた。


「よし! どうなってるかな!」


起きて早々に、まだ眠っている町に監視カメラの確認へ向かった。

録画されているデータを見ると、なにも残っていなかった。


「これも……これも、これもこれも! 全部データがない!?」


録画されているはずのデータは午後10時をきっかけに途絶えていた。

なにも収穫がないように見えて、逆にこれは自分の意見を強めるものになった。


「そういうことか……、やはり"奴ら"のしわざだな。

 監視カメラで取られちゃ都合の悪いことを行っているに違いない」


午後10時ぴったりに広範囲へ仕掛けた監視カメラを同時に録画させない。

やり方としては徹底しているがあまりに露骨すぎた。


俺はあらゆる情報網を駆使ししてブラックオフの発生施設を特定した。


「誰だ君は!」

「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」


「この政府の犬めっ! ここで何が行われているのかわかってるのか!!」


施設の入り口でガードマンに止められてしまった。

あんまり暴れるもので、責任者が出張ることになった。


「あんたがここの責任者か!」


「そうだが、君はいったい……」


「この施設は政府の陰謀でできている!

 これから大規模な最終戦争が起きる前にこの施設を壊すんだ!」


「……は?」


きょとんとする責任者に対し、俺はすべての陰謀説を理路整然と訴えた。


「……というわけだ! 良心があるなら今すぐこの施設を離れるんだ!」


「ぷっ……あははは!」


責任者はついに吹き出してしまった。


「な、なにがおかしい! 俺は真面目に話をしてるんだ!」


「いや……もうなんかすごい想像力だなって。中をお見せしますよ。

 あなたの陰謀が本当なら、こんなことしないでしょう」


「む……」


責任者は関係者用の名札を貸し出して、ブラックオフ施設の内部へと招き入れた。

工場見学のように目に映るあらゆる機械やその働きを説明してくれる。


「やけに説明の仕方に慣れているようだが、

 その饒舌さで俺のような世界の裏側に気づいた人間を煙に巻くつもりか」


「あ、いえ。平日は普通に子供たちの工場見学で説明しているんですよ」


「……えっ」


「そんな政府の悪の組織が出入り自由なんてありえないでしょう」


「し、しかし! ブラックオフの気絶はこの世界の真実を気づいた人間を始末するためのものにちがいない! 一部の高額投資者だけを気絶から免れて好き放題を……」


「私、ここの責任者ですけどそういった政府の要請なんてありませんし、

 あったとしてもその作戦のため急に仕事が変更されたら従業員に見限られちゃいますよ」


「それも! 俺をあざむくための嘘なんだろう!!」


「この嘘をつくなら、そもそもあなたをこの施設には入れませんよ。

 なんで施設を案内して、そのうえあざむ労力をかけるんですか」


「それじゃ、監視カメラのことはどうなる!?

 たくさん仕掛けたカメラが同時に壊れるなんてありえないだろう!」


「それは……」


「ほうらみろ! やっぱり何か隠しているんだ!!」


「こちらです」


案内された部屋は操作盤が並んでいて、ガラスの無効に大きな発生装置がある。


「ここがブラックオフのための気絶電磁波発生装置です」


「すごい……なんて大きさだ」


「生物の意識を飛ばすほどのエネルギーをぶっ放しますからね。

 それに、その電磁波の影響で繋ぎっぱなしの家電は壊れちゃうんですよ」


「へっ?」


「電気代の節約の一環もあるんですけどね」


午後10時ぴったりにすべての監視カメラが壊れる。

それは単に発射された電磁波で監視カメラが壊れてしまっただけのこと。


「だいたい、0.1秒の差もなく同時にカメラ壊せるなんて人間わざじゃないでしょう」


「それは……そうだけど……」


「おわかりいただけましたか? この施設は政府の暗躍組織でも、

 世界を侵略しようとする悪の秘密結社でもないんですよ」


「そう……かもしれません。これまで俺は偏った考えを持っていました……」


「わかってもらえてよかったです」


一段落したとき、放送が聞こえてきた。



『もうすぐ午後10時になります。

 外を歩いている人は家に帰りましょう』



責任者は気を取り直して話し始める。


「さて、と。それじゃそろそろブラックオフをしなくちゃですね」


「その作業を見せてもらっても?」

「もちろん。かまいませんよ」


責任者は操作盤にある2つのボタンを指差した。


「こっちがONスイッチです。このボタンを押すと電磁波が発生し、すべての生物を気絶させます」


「なるほど」


「で、こっちがOFFスイッチ。ONスイッチが入っているときに押すと、電磁波がストップしみんなが目を覚まします」


「そうなんですねぇ」


うんうん、と頷いてからふと気づいた。


「すべての生物が気絶しているなら、誰がOFFスイッチを押しているんですか?」


責任者は再び目を点にした。



「さあ? 考えたこともなかったです。誰がやってるんでしょうね」

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