十六話_全部見させてもらったよ。

 拍手が聞こえた。二階からの階段に”vip”が立っている。

「僕は運がいい。1000万じゃ足りないな。この体験はその程度へでもないほど金を生む。そう思うだろ?」


「なあ、Mr.花人間。僕の方に就くつもりはないか? 1、いや10億でオファーを出す」

「精霊を舐めるな。金の問題じゃねぇ。そういったつもりだが」

「そうか残念だ」


 その瞬間。柊坂はぐたりと伏せた。そして、高速で刃が振り下ろされる。

 柊坂の”頭”をvipはキャリーバックに押し込んだ。

「じゃあ、僕の方で調べるよ」


「後は君たち二人。見た所、君たちも訳ありなんだろう? 加庭くん、秋井戸くん。同じ条件だ、10億。欲しいか?」

「貰えるなら、当然」と加庭。

「危機を乗り越えてからな」と秋井戸。


 言葉とは裏腹に、二人の心には、目の前の男こそが倒すべき宿敵であるように映っていた。

 警報音が鳴り響く。爆発までのカウントダウン。


 全員を救う。

 花人間を地上に行かせない。


 加庭が、後で組んだ手を”パー”の形に開いた。

 秋井戸は、「まじん」と唱えた。


「奴の見えない攻撃はおそらく”電気”。お前の”安全靴”電気を通すか?!」

「危ない場所で働いてるんでね」


魔人ウィザードマン!!」

 厚底の安全靴をガツガツ鳴らして、大それた服装の男に向かう。ちょうど一瞬立った瞬間、秋井戸は”消えた”ように見えた。瞬間移動だ。

 加庭は【二つ折りの夢バッカーウィット】を秋井戸を対象にして彼の前方1mを軸を設定し発動した。とっておきの工夫である。

 後頭部に全力の魔力を込めた拳を振りぬく。男はふらつくものの、まだ倒れない。それどころか、刃を抜きそれを秋井戸に振った。あまりにも早い剣技。

 しかし、それは皆目見当違いな方向だった。

 ふらつきながら、懐に手を伸ばす。「君ら…凄いよ」

 彼は”花束”を取り出した。

 どの方向を向いていても関係ないと言わんばかりに、魔法を散乱させる。炎氷雷風…なんでもありだ。

「しかしお前、まるで話を聞いてないな」

 攻撃を防ぐ魔力の壁を【魔人ウィザードマン】で生成した。”電気”と”刀”以外の魔法はさほど威力もない。これで、魔力切れまで防ぎきれる。

「お前の負けだ」


 魔力切れで魔法の一つも使えない男は、床に倒れ込んだ。

「ところでお前、爆発を止める術は用意していたのか?」

「してないさ」

「どっちだとおもう?」

「何が?」

「爆発だよ。魔法か物理か」

「うーん。魔法じゃないかな」


 加庭はキャリーバックから”頭”を取り出した。

「【二つ折りの夢】」

 一瞬。柊坂の目が動いたような気がした。たぶん錯覚だ。

「精霊に魔法の爆発を吸収してほしい」

 まるで、時がゆっくり進んでいるような感覚。

 何もかもが無に帰る。ただ、それは今すぐではないらしい。

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