十四話_偽物

 事務室。菓子野辺姉弟は眠るようにして休憩をとっていた。

 もう、乗船からしばらく経つ。正直、俺も眠たい。

「悪い、医療具借りる」小さな声でそういうと「私どもが手当する事になってますので…」と姉の方が控えめに言った。

「自分でやらせてくれ。頼む」

「ありがとうございます」

「一ついいか? 船長とは長い付き合いだった?」

「…長いというほどでもありません。3ヶ月ほどです。彼が新任で船長職に着き、それ以降です」

 その船長は、簡易ベットの上に寝かされている。

 それとなく、ベットに近づく。【魔人ウィザードマン】発動。

 肉とも枝とも判別がつかない遺体に魔力の腕が侵入する。

「もう一つ…いいか。どうしてこれが船長だと思った?」

「…え?」

 これは人じゃない。人のように見えないとかではなく。人の形をしたただの器だ。組織や細胞レベルでの識別が可能だからこそ分かる事実。

「詳しい説明は省くが、これは”花”が先。肉に見える部分が後付けの偽物だ」

 少なくとも”似せて”造られているようだ。

「君らも少し調べさせてもらう」

 姉弟の腕を掴む。それぞれに【魔人ウィザードマン】で侵入する。異常はない。至って健康だ。

「悪かった。ただ…腹が減ってないか? 飯は食った方がいい」


 事務室を後にする。ここにはもう用はない。しっかりと鍵を閉めた。


 食堂室に着くと、ターミナルから三人分の晩飯を注文する。

「そういえば、他の連中はどこに行ったんだろう」

「流石に共有しないと不味い情報だろうし」

 たれのかかった肉を齧る。何というメニューだったか、今までにない味わいだ。まあ、ほとんどの食べ物にそう感じるのだが。

「久しぶりに落ち着いた気分です」

「働き過ぎはよくないね」


 飯の味を楽しんでいると、二つの扉が同時に開いた。

 バスルームとレク部屋だ。大学生柊坂赫ひいらぎざか かくと女の子大脇音衣おおわき ねい、加庭が現れた。

「そいつ、今からぶちのめす。手伝って」と加庭。

「”花人間”」と怯えがちに女の子。

「船長の遺体は偽物だった」と俺。

「聞いてる」そうかい。

 柊坂に向かって【魔人ウィザードマン】の腕を伸ばす。そして柊坂はそれを避けた。

 腕を球形に変え、勢いよく柊坂に向け射出した。腕に命中し、皮膚が抉れる。しかし、血は出なかった。代わりに、木の根のようなものが傷を覆い隠した。

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