十二話_刀の達人

 ”花人間”はいない。本当にそうか?

 だとしらた船長はなぜ花にまみれて死んでいたのだろう。部屋に花を配ったのは? 何故だ。

 俺の肉に食い込む謎の種。本当にあったのか?

「【魔人ウィザードマン】」

 怖くなって、この場で摘出を始めることにした。左の肩口、皮膚からは遠くない。異物を魔力の繊細な操作によって、肉体の表面に向かって引っ張る。

 ビチィブチと効き心地の悪い音を効かないふりをして、痛みに歯を食いしばる。

 固まる前の赤黒い血が、どうしても悲愴を印象付ける。しかし、これはミッション。あるいは代償。

「はぁはぁ。」

 とれた…。種からは、根のようにも見えるうねる突起が生えていた。想像通り、これは人間の中で成長する。寄生植物だ。


 乗客を片っ端から調査しなければ…。手遅れになる前に。

 まず、人を探そうとした矢先、目の前に派手な服装の男がいるとこに気が付いた。vipだ。

「おや、血を出してどうなさったのですか」

「たいした問題ではありません。ありがとうございます」

「いやいや、一度手当をした方がいいでしょう、確か、事務室にありましたよ」

 そういって、俺の背を押す。近づいてきてくれるなら儲けものだ。【魔人ウィザードマン】を発動する。触れるほどの距離なら、ある程度適当にやっても失敗することはない。

「…!」

「どうしました?」

 反射的に距離を取る。こいつの肉体には”種”がいくつもある。しかもそのうちの2つは、もはや摘出ができないほど成長している。

「一つ、聞いてもいいですか。俺、フリーターで、貴方みたいにチャンスをつかむ方法を知りたいんです」

「ほう。いいよ。何でも聞いて」

「”花”をいったいどれだけ使いました? 俺は怖くて…」

「ははは」

 豪快に笑って、何もない空間から、”刀”を取り出した。魔法を覚えたての時期に独特のタイミングの遅れは僅かもない。「もはや呼吸かなってくらいには練習したよ。冗談じゃなくてね」

 次の瞬間、刀は消えていた。目で追えない速度だ。こいつはその気になれば、不意を突いて一瞬で俺を斬首できる。とても相手に出来るレベルを超えている。

 だが、収穫はあった。

 ”種”は花を使えば使うほど成長する。そして、脳を乗っ取ることはない。恐らくだが。

 こいつほど植物を育てても脳は無事だからだ。

「ありがとうございます。俺も魔法、練習します」

「ちゃんと止血して安静にすることだよ」

 わずかだが、彼に好意を抱いたことは、仕舞っておこう。彼の末路を知る必要がある。

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