十一話_【二つ折りの夢-バッカーウィット-】

 私は秋井戸あきいどれんの瞳を凝視した。

 この旅で一番優先されるのは”金”。こいつはそれを理解していない。

「確かに、俺達の手に余る事件にまで発展している。だが、”花人間”を地上に解き放つことも出来ない」

 地上への連絡通路で、”降りてはいけない”事に気が付いたのは褒めるべき手柄。しかし、最初から有無を言わせず【バッカーウィット】で閉じ込めればいい話だ。

「仕事だ、秋井戸。へまはできない」

「もう失敗した。あとは出来る事をするだけだ」

「出来る事だと? お前にヒントをやる。自分がしていることの愚かさを知るだろう」

 私は右手を開いた。そして左手でポケットから枯れた花を取り出す。

「【二つ折りの夢バッカーウィット】」

 そう唱える。普段はしないことだ。

 すると、枯れた花が凍り付く。

「氷…? なぜおまえが氷の魔法を?」

「特別に教えといてやる。【バッカーウィット】は逆向きにする術だ。そしてそれは概念にまで効果が及ぶ」

「死した花の魔法を、一瞬だけ現世こちらに向き直した」

 霊得術の突飛さは、秋井戸本人も知るところだ。すぐに理解を示す。

「誰の花なんだ?」

「”氷の死体”本人のだよ。つまり、あれは事故だった。”花人間=氷使い”なんかどこにもいない」

「…。じゃあ種はなんなんだ」

「しるか」

 自分で見つけたんだ、自分で調べろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る