八話_行きはよいよい帰るまでがなんとやら。
事務室では、二人の船員が、難しそうなパネルを相手に四苦八苦していた。どうやら、彼らにはAiを操作することはできないらしい。
「危険人物を拘束できる縄かテープみたいなものが欲しい」
「…内々川さんですか」と女の方。
「そう、たぶん。夫婦の夫」
男の方はてきぱきと”対応用具”と記された箱から、拘束具の一式を取り出した。
「船員が扱う事になっておりますので、私も同行させていただきます」
一瞬だけ船員二人は目を合わせて、すぐに事務室を後にした。
「実は私、事件が起こるって知ってて乗ったんだよ」
「えっ」
あからさまに狼狽える。この男は、結構好みのタイプだ。目が美しい。
「まあ人が死ぬ、とは一言も言われてないけど。普通の旅ではないって覚悟で来てる」
言外に含めた”誰かに言うな”、というニュアンスが伝わっただろうか。
「ただ…ちょっと弱いかな、パンチが」
怯え、声が小さくなる。「というと?」
「まだ一波乱ありそうってこと」
「もうすぐ、沖縄に着きます。予定は変更されますが、そこで下船可能です」
「えっ。ああ、そうなんだ。それはよかった」
気絶させた男の元に着くと、そこには乗客の皆が集合していた。
そして、男も気絶から復帰している。
「加庭。拘束具はもういらない。もう陸に着く。あと数分だ」
「さっきは悪かった。止めてくれてありがとう…」
「いいよ。私で良かったと思ってる」
突然Gがかかる。東京から沖縄間を一日足らずで飛んだのだ。安定しすぎていて気が付かなかったが、それなりの速度が出ていたのだろう。
そして、天井に設置されたスピーカーから、沖縄に到着した旨が伝えられる。
「着いた…」皆がそのようなつぶやきを残すなか、女の子が発した言葉が耳を貫いてなかなか消えなかった。
「怖い人」
船は完全に停泊した。下部から地上への連絡通路が開かれる。
そしてその通路の先には一人の人間が立っていた。どこかで見たような顔だった。
ニュース番組やテレビコマーシャルで見た、実業家兼タレント。テレビに疎い私でもわかる一流vipだ。
一同の視線が船員に集まる。早く説明しろと。
「いわゆる”お忍び”というもので、彼が復路に乗ることは最高機密レベル。しかし関係ありません。下りましょう」
連絡通路を進もうとしたとき、通りの良い声が、鋭く場を制する。
「何かあったみたいだね。教えて?」
人気者で成功者だけあり、人と違うオーラを纏っている。彼こそが”一波乱”。間違いはない。
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