七話_養分とは与えるものであり、奪われたくないものだ
種の調査の為、他の乗客や船長の遺体も調査しておきたい。【ウィザードマン】の肉体検査は、完全に静止した状態からなら2m程の射程距離がある。
いくらでもチャンスがあるとはいえ、できるだけ魔法を使う場面は見られたくない。
調べる対象を吟味せねば。
まず、花と種の関係についてだ。最初に思いつく想像はやはり、”成長前後”だろう。
種が成長していき、最終的には”船長”のように全身から花が開花し、死に至る。
人に寄生し魔法の花を実らせる植物。その香りで人を魅惑し、魔法を手渡す。それが命との取引だとは知らずに…。
思考を巡らせていると、二回に続く階段から足音がした。それは加庭のものだった。
「”夫”が攻撃を仕掛けてきたから仕方なく気絶させた。拘束できるものないかな」
「なんだって?」
「私がやったって信じてるっぽい」
ある意味では、加庭が標的になって良かったと言える。少なくとも二次被害が起きることはない。
それに、気絶しているならそれとなく触れて【ウィザードマン】が使える。
「そういう道具なら事務室に揃ってるはずだ。行けばすぐわかる」
加庭が事務室に向かったのを確認し、俺は二階で気絶したという夫婦の”夫”、
-下-
壁が熱気で溶けている。恐らく火之汰氏の持つ”花”の魔法の影響だろう。加庭も”熱”と言っていたが、バッカーウィットを差し置き船を破壊するリスクを負ってまで使うとは思えない。
あいつは自身の魔法に全幅の信頼を置いている。そういえるほどの練度もある。
そして壁の周囲を見回すと、すぐに倒れている男を見つけることが出来た。そしてその傍には小さい子供、
「あっ」その子と目が合うと、何か言いたげに口を開きかけた。しかし、言葉は紡がれない。
「なんだい」そう言いかけた所で、奇妙な変化を見つけた。小さい子の顔に、緑色の痣がある。入船の時には無かったはずだ。
【
触れる。知覚が急激に拡張し、血管の配置や、脈動のリズムなどが精密に伝わる。
”種”はなかった。その代わり至る所に”花”の形をしたなにかがある。
女の子は火之汰氏の肩を叩いて、こう言った。
「もうすぐ沖縄に着くよ。いっぱい人が待ってる」
ぞわぞわと、とげとげした芋虫のような予感が心を這う。理解するまでもない第六感。ふと、女の子が目線で何かを追った。
そしてそれは【ウィザードマン】で伸ばした魔力の腕である事を直感する。
「音衣ちゃん。お花は持ってる?」
「ううん」
「じゃあ,お部屋にあるのかな」
「食べちゃった」「お花がね、食べて、おいしいよって言うの」
三階に続く階段から女の子の父親である、
「予想以上に事態は悪いみたいだな」
自分の娘の顔に浮く緑色の痣には気が付いてないようだった。
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