五話_探偵魔人の探知波動

「船長と最期にあったのはいつだ」

 あの場で動いてしまったからには、俺がこの問題の”解決役たんてい”を全うするしかない。

 見てられないほどに平静を失ってしまった二人の船員、菓子野辺彩斗かしのべ あやと菓子野辺健日かしのべ けなびに話を聞く。

 この名は、事務室のホワイトボードに書かれていたのを見つけて初めて知った。確かに息はぴったりで、よくみれば目元が似ている。

「船の点検に立ち会うと言って先に入船したきりです。つまり…三日ほど前」と健日。

「私どもが入船した後は、お客様のお迎えの準備をと、事務室には帰っておりません」と彩斗。

 確かに、バックヤードは事務室だけではなく、各階層に存在するようだ。ここはシステムのブレーンだけの空間なのだろう。

 何か手掛かりはないか…。記憶に探りを入れる。候補に上がる時間は少ない。そうだな…。

「確か、花を置いたのは君たちだと言ってたな。それがすり替わっていた」

「はい」

「そのタイミングから俺達が入船するまでに、この船にいた人物は他にいるか?」

「いえ…船長一人です。しかし…」

 如何せん大きい飛行船だ。誰かが潜んでいたとして、一日二日で見つからないこともあり得る。密室を立証できないわけだから、いくら疑惑を絞っても意味はない。

「ところでなんだが、この船を途中で止めることは可能か?」

「…」

 姉弟が目を合わせて数秒。導き出された答えは「いいえ。不可能です」だった。

 だが、その後。姉が弟にスケジュール帳を指さして、それを受けて弟が言った。「あと一時間ほどで沖縄に着きます。そこでは一人のとあるVipを乗せる事になっています。つまり…停船する。脱出が可能です」


 後一時間でこの空間から脱出できる…。しかしそれでいいのだろうか。

 しこりの様な不安が漂い続ける。何か見落としている。

 いや。違う。何もかもを見て、そこに漏れはない。足りていないのは、俺の発想だ。

「【魔人ウィザードマン】」

 俺は霊得術を使うときは、できるだけ発声するようにしている。何故ならカッコいい。それに魔人まじんの方も心で唱えることができる。

 手から魔力を発する。そしてそれは俺の新たなる知覚となり、今まで不透明だった不可視の領域を可視化する。手は己の心臓に当てられていた。

 放たれた魔力が全身を巡る。血の巡りや臓器の働き、消化されている食べ物がヴィジョンとして見える。そして見つけた。

 ”花”の種だ。

 摘出は不可能ではなさそうだが、血を出して怪しまれる訳にもいくまい。起きている事態を解決できるだけの理論を用意してから、皆の前で摘出したほうが、わかりやすそうだ。

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