四話_不思議と命の天秤

「皆も気が付いているだろう。いままさにその通りの事がおきている」


 二階部分、大広間にキャプテン以外の10人が全員集まっていた。ミニ・オープニングセレモニーだ。

 ”精鋭”である二人の船員が立って、8人の乗客に向けて船内機能などの説明をしている。

「船のシステムのほとんどはAiが請け負います。私どもはAiの手の届かぬお手伝いをする者です」と言っていた。

 生活必需品や飲料などが欲しければ、至る所に備え付けられたターミナルを操作して船内倉庫からの支給を受けられるらしい。

「あの”花”もそのシステムとやらの一つなのか?」

 乗客を代表せんとばかりに声をあげたのは、”夫婦”の二人組、夫のほうだ。

「いえ…確かに部屋に一輪ずつの花を飾っております。しかしそれはただの飾りです。魔法だなんて…」

 意味が分からない。そりゃそうだ。私も霊得術を自覚した時は”ついにおかしくなったか”と思ったよ。

「じゃあ答えてくれ、こりゃ何ていう種類の花なんだ」

 夫婦の片割れは強い香りを放つ”花”を見せつける。

 二人の船員は一瞬の間を開けて、相互に目を確かめ合った。

「それは私どものいけた花ではありません」

「なんだと?…じゃあ誰が…」

 だれもがこの問答に注目した時だった。背後からのゾッとするような冷気を感じたのは。

 そう。文字通りの”冷気”だ。

 人が氷漬けになっている。初めて見た光景だからだろうか。それが人にとって致命的な状態であることを認識するまでに10秒ほどの時間を有した。


 -中-

 秋井戸の鋭い声が、室内に響いた。

「全員静かに!何か持っているなら全て置け!」

 そうだ。私たちはこれで任務を失敗したことになる。だが、当然これ以上の被害を生むわけにもいかない。

「”花”が殺人事件に使われた。見てわかるように”氷”属性の花を持つものが犯人だ」

 20分ほど前、秋井戸の”花”は風を操っているところを大勢に見られている。とりあえず彼は白。だからこそ名乗りをあげられた。

 探偵と犯人、そして凶器の雰囲気をいち早く察知した、大学生二人組のどちらかというと背の高い方が主導権を握られまいと、声をあげる。

「”花”の性質をただの武器と同じように解釈することはできない。だから花の力を見せろというのは通じないぞ」

「そう。その通りだ。それに”氷使いはんにん”と戦いにでもなったら、むざむざアドバンテージを渡すことになる。俺も秘匿派だ」


 氷漬けの死体は夫婦の二人組の妻だった。それをみた夫は想像とは逆に、完全に沈黙して俯いている。

 私にわかる類の感情じゃない。彼は見かねた船員たちに連れられ、一階部分にある事務室と思しき部屋に連れられて行った。

 依然にして完全なる氷像の死体は、大広間の真ん中で床に張り付いて融ける素振りすら見せない。壊すわけにもいかないので、これは放置するしかない用だ。

 どよめきあい、それぞれがばらばらに会話する空間を再度一つに注目する事件はすぐに起こった。


 一階からの悲鳴だ。彼らが行って数分としないうちに聞こえてきた。

 私と秋井戸、そして大学生ののっぽが走って駆け付ける。

 事務室を強くノックすると、ガチャリと音がして、中から船員が一人でてきた。

「花…。花です…。船長から花が…」「咲いてるっ…」

 奥に進むと、全くその通りの光景が。

「魔法の”花”か?…これ」

 そうみえる。この場にいる誰も試そうとしないが、だからこそその雰囲気に肯定されるかのように、心に動揺が走る。

 船長は無数の花に寄生されて、人の形からかけ離れた状態で発見された。

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