6
麗鈴が設けた研修最後の3日目の朝。
仄はひしめき合う本の間、イモムシのように寝袋にくるまり寝ていた。
1日目の夜はかろうじて事務所に帰って休んだものの、2日目には帰る気力もなければ体力もなく、食事は麗鈴が持ってきてくれた携帯食で済ませる。
それも本を汚すことがないように開発された、球体のゼリーのようなものを容器から押出し、直接口に運び込む物。
口に入れば即座に液体になって喉へと流れ込む。食べかすが出ることも、手が汚れることもなく、食べ終わった容器はクロに預ければクロがダストボックスに捨てに行ってくれた。
フレーバーは色々あるらしいが、そういう食事に縁のなかった仄にとって、必要な栄養は摂取できると言われても、どこか味気なかった。
夜になると帰るのも面倒になり、ニヤニヤと微笑む麗鈴が持ってきた寝袋に入って本の間で寝ることになった。
「なるほど、地上の自室が要らないわけだわ。地上に『出ない』ではなく『出られない』ってことってのがよくわかった」
朦朧と襲ってくる眠気の中そう思い、疲れ切った仄は泥のように眠る。
目を覚ましたのは薄く意識が浮上してきたところで、自分に近づく気配に気づいたからだった。
落ちこぼれとは言え第7島出身。気配を察知するのは他の島の連中よりは優れている。
ただ、この場所で気配というと麗鈴ぐらいだろうと、あまり警戒すること無く目をゆっくりと開いた。
ベッド以外で寝るなんて第7島の地下戦闘実地訓練以来。
あの時と違い、寝袋があるとは言え、関節という関節が固まっているようで、ぎしぎしとした痛さを自分に伝えてくる。
「Tさん、やっぱり3日は厳しくないですか?」
そういいながら、寝袋のジッパーを下げて上体を起こし、目をこすりつつメガネを探した。
「……、……?」
「え? なんです? ちょっと待ってください、今メガネを」
そういって、手にメガネが当たり手に取った瞬間、仄の鼻に草の匂いが広がった。頬を吹き抜けていく風はまるで草原の風。
驚いた仄が慌ててメガネをかければ、自分は本当に草原の中に居て、見上げれば澄んだ青空と白い雲が晴れ渡る空を示している。
「……一体、これは」
下半身にまだ残っているはずの寝袋はなく、少し硬めの絨毯についたはずの手には土と草の感触。
視線を落とし、草を手に取れば、今この状況が幻ではないと証明してくる。
「夢? いえ、そんなこと。私はたしかに起きた……、はず」
立ち上がり、辺りを見渡していると、数人の影がこちらに向かってやって来るのが見えた。
その影は近づくほどに人間らしくなっていくが、どこかぼんやりとした印象ではっきりとしない。一瞬、メガネを付けてなかったのかと思うくらいに、輪郭もぼやけ、顔はそこに目鼻口があるのだろうと分かる程度の影が存在しているのみ。
身構えていると、一人がぽろりと口を開いた。
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