「本は置いた位置のまま他の棚板に移動するんですか?」

「いいえ、各棚に移動させた本は基本的に左揃えで順に保管されます。右揃えや中央揃えに変えたい場合は事務室の端末で設定変更を行ってください。また、上部の棚の状態が知りたければLiVeに『本棚の状態把握』といえば、目の前に映像として映し出してくれます。映し出された映像はタブレット端末と同じようにズームなども出来ますので、後ほど自分で試してみてください。棚ごとの移動も可能で、『この棚の本を上から2番めの棚にまとめて移動』というように言えば移動させてくれます。ちなみに言葉は決まっていません。命令しやすい形で命令してやってください。そして、欲しい本が上段にあるならば、LiVeに欲しい本のタイトル等を言えば手元の棚板に移動させてくれます。ただし、手元の棚板が満杯のときは近くの空きスペースに移動するので、移動させる際は注意してください」

「LiVeは本を記憶しているということですか? だったら」

「言いたいことはわかりますが、LiVeが対応できるのは、あくまで『貴女の手によって分類された本』に限ります。今は研修ということで権限が外れていますが、本来は私の命令にクロが応じることはありません。クロの権限は貴女にあり、そして貴女の全てをクロは学習していきます。主人のありとあらゆることをLiVeは学習し、たとえ主人が忘れてしまったことであってもLiVeが忘れることは決してありません」

「じゃ、Aさんはどうやって」

「Aははじめに全てを自分で分類した上でLiVeに管理させているんです」

「はじめにあれだけの本の分類作業したってこと……」

「あぁ! 違いますよ。あくまで単純な『分類』、つまりは『整理』であって、本棚にしまう行為や翻訳などの『作業』をしたものという意味ではありません。LiVeが認識できる最低限の行為、それは主人が目で見たもの。ですので、Aはまず全ての本のタイトルと作者を見たんです。まぁ、それでもこれだけの本がありますからね、見るだけでも相当でしょうけど。でもLiVeは本棚に入っていない本の『場所』をシステム上で把握することは出来ません。なので、Aは自分の区画をさらに分けてそれぞれのLiVeに管理させているんです。本棚に入って居ない本を把握するには、常にLiVe自身が何が何処にあるか確かめて記憶しておく必要がありますからね」

「本棚に入っていればわかるんですね」

「LiVeは本棚というよりは、主人が割り当てられたエリアのシステムとつながっています。本棚もシステムの一つです。なので分類された本が本棚に入ってさえいれば、どんなに離れた位置であろうと把握が可能なんです。LiVeを複数持ってそれぞれの情報を共有させることも出来ますが、Aは割り振った各エリアを完全に把握させるため、敢えて情報の共有はさせてないみたいですね。この島のシステム上にある限り、LiVeは非常に便利な道具ですから、仕組み等を覚えてぜひ活用してください。ちなにみ知珠咲長から聞いているかわかりませんが、LiVeの活動範囲はこの地下施設内限定です。地上に出る際は置いていってくださいね」

「……。やることが多すぎませんか? やっぱり3日は無理だと思うんですけど」

「いいえ、やることは単純作業です、多くはない。覚えることが多いだけです。これくらい純度100には大したことではないですよ」

 仄の顔が歪めば、麗鈴は楽しげに笑って言い、スパルタな研修は続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る