「まぁ、こうなるとは思っていましたが、遠矢仄さん、起きてください」

 いつの間にか寝てしまっていた仄は体を揺すられ起こされる。気がつけば目の前には豪華な食事が沢山並んでいた。

「す、すみません。寝てしまって」

「わかっていますし、そうなるだろうと思ってました。静かでしたので作業がはかどりまして、思わず作りすぎてしまいました」

「麗鈴さんは私と違って何でも出来るんですね」

「えぇ、それはもちろん。純粋な貴女とは違い、私は混合に混合を重ねすぎて普通の連中よりも少しスペックが高くなっているんです。貴女の場合は純度が高すぎる為に一つの事柄のみに特化してしまったんですね。まぁ、全てにおいて純度100で何でも出来る者が完成したなら、この世界は滅亡してしまうでしょうけどね。さぁ、冷めないうちに食べてしまいましょう。ここは滞在する場所であって、宿泊は出来ませんから」

「あの、食べきれなかったら持って帰ってもいいでしょうか。後で食べたいので」

 あまりにも美味しそうな目の間の食事に思わずそういえば、麗鈴は大きく笑って「どうぞ、どうぞ」と返事をする。

 食事をしながら談笑し、持ち帰りもちゃんと携えてそろそろと思えば麗鈴がソファーの方に座るように言った。一体なんだろうかと疑問に思いながらもソファーに腰掛ける。

「さて、貴女もうすうす感じているでしょうが、この場所に来たのには食事の他に目的があってのことです」

 その前置きに、仄は嫌な予感がしてため息を一つついた。

「そうでしょうね、食事だけならその辺の食堂でも自室でもいいわけですし。そしてそれは他言してはならないことなんですね」

「正解です。話が早くて助かります」

「どうせなら、食事の前にして欲しかったです。楽しいことの後に気が重くなるようなことを聞かなきゃ行けないのは嫌なんですけど」

「気が重くなるかならないかは貴女次第でしょう。別に貴女のことを罵ったりはしませんよ。それに、これは私が勝手にしていることで、親切では有りますが、私の権限ですべきことではありません。故に誰にも干渉されない、干渉できないこの場所が適切だと判断したのです。当然私が今まで教えてきた他の職員達には一切行っていない行為です。2日間ではありますが、貴女の働きぶりと性格、私が事前に得ていた情報等を合わせ、貴女は知って置かなければならない立場であると判断したからこそ教えて差し上げるんですよ」

 今までは到底教えるというよりも体感して覚えろという雰囲気だった麗鈴だが、今は教えるという。その姿を見て余程のことを言うのだろうかと仄は少し緊張した。

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