4
「そんな場所に私を連れてきて良いんですか?」
「まぁ、貴女なら大丈夫だと思いますよ。千珠咲長のお気に入りですから感知されたところで抹殺されることの無いでしょうし、第1島の連中も元実験体に見られるくらい何とも思わないでしょうから」
実験体という言われ方に少々眉間に皺を寄せた仄。
しかし、麗鈴は気にすること無く建物の鍵を開けて中に入っていく。
小さな、緑地公園の公衆トイレほどの建物は施設への入り口だけの役割のようで、入ってすぐに階段が下へと続いていた。
先程地上へと出てきたところなのにまた地下に戻るのかと、薄暗い階段を下りながら仄が思っていると、麗鈴が小さく笑って話しかける。
「本当に貴女はわかりやすい人ですね」
「それが、長所だと思ってます」
「長所。まぁ、どう思うかは本人の自由ですが、あまり出し過ぎるのは良くないですよ。連中はあざといですからね」
「連中って、住人のことですか?」
「えぇ、勿論」
階段の一番下に付けば、大きなドアが見え、麗鈴がドアの目の前に立つと光が降り注ぎ数十箇所に及ぶ生体チェックがされて更にカードキーを差し込むことでドアが開いた。
電動で開いたドアはまるでシェルターの様に分厚く作られ、開かれたドアの壁部分を見てみれば、壁もまたドアと同じ構造。
「随分、厳重ですね」
「当然でしょう。ついでにここは自家発電です。この島で唯一全てから切り離せる状態になることが出来る貴重な場所なのですよ」
自慢気に微笑み、先に入れと手で示してくる麗鈴にしたがって、仄が先に部屋の中に入る。すると、予想に反してこじんまりとした落ち着きのある部屋が現れた。
仄は、自分を観察し続けていた部屋だと聞き、研究施設のようなそんなイメージがあったが、実際は一人暮らしの女性の部屋といった感じの様子に驚く。
辺りを見回す仄の様子が楽しくてしかたがないといった風に微笑みを絶やさない麗鈴。
「意外ですか?」
「そりゃそうでしょう。私を見ていたというなら何ていうか、それ相応の機器がずらっと並んでいるのかと思うじゃないですか」
「あぁ、それはあちらです」
そう言って目配せをした麗鈴の視線の先には確かにもう一つドアがある。
「残念ですがあちらに貴女は入れません。入った途端に消し炭になります」
「え! 消し炭?」
「とは言え、まずドアが開きませんけどね。そちらは完全に私一人しか入れない設定になっています。例外があるとすれば千珠咲長ぐらいでしょう。不法侵入者がセキュリティを壊そうとすればセキュリティに殺されますしね」
けらけらとおかしげに笑う麗鈴を見つめながら眉間に皺を寄せつつ辺りを見回した仄は首をかしげた。
「食事、するんですよね? 端末が見当たらないですけど」
「先程も言いましたが、理解ができてないのですか? ここはこの島で唯一切り離されている。端末は、中央につながっていますからね、無くて当然でしょう」
「え? じゃぁ、どうやって食事をするんです?」
「貴女の目は節穴ですか? あれは飾りではありませんよ」
そう言って麗鈴は長い髪を束ね、途中椅子にかけてあった前掛けをして、カウンターの向こうに入っていく。後について仄がカウンター越しに覗き込めば、立派な電気式のキッチンがあった。
「まさか、作るんですか?」
「当然です。材料は毎日ちゃんと私が厳選して買って置いてあるので十分あります」
「あの、私、料理はちょっと」
「大丈夫です、期待していません。貴女は軍事食の簡易料理ですら出来なかった人ですから」
「……そんなことも見ているんですね」
「当たり前です。貴女の全てを数値化しろと言われれば、例え千珠咲長が消してしまっていても難なく出来るほどに知っていますよ。私は記憶力も優れていますので。申し訳ないですが娯楽は一切ここにはありません。暇を持て余すでしょうが暫く座って待っていてください」
仄はため息混じりに言われるまま、カウンター近くにあるダイニングの椅子に腰をおろし、部屋の中を再びぐるりと見渡す。
娯楽がない、というだけあってテレビも本も何もない。唯一あるのは碁盤と碁石。以前書物で見たことがあるゲームだが、どうやって遊ぶのかは全くわからないもので、仄は仕方なくぼんやりと過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます