「あの、でも私達の行動は千珠咲長に知られているんじゃないんですか?」

「契約の事を言っているのであれば確かにその通りです。ただ、それだけでは彼女が私達の会話を聞き、私達の行動を監視は出来ません。彼女が監視し会話までをも見聞き出来るのは全てコンピューターに繋がれた部分のみ。先程も言いましたがこの場所は島から唯一切り離された場所です。私達が何処に居るのかを把握することは出来ても、この場所に現れない限り私達の会話であり行動が彼女に知られることはないんです」

 あまりにも精通している麗鈴に仄は驚き、小さく「はぁ」と納得しているようでしていないような返事をする。

 仄の態度に麗鈴はにっこり微笑んで、冷たい水をコップに注いで仄の前に置き、自分は一口含んでから小さく息を吐き出した。

「さて、まずはその千珠咲長についてお話しましょう。貴女はあの方をどう思いますか?」

「どうって言われても。いい加減で大雑把、とても総監なんて肩書の方には思えない。それと変な人だと思いっています」

「変とは言いますね」

「長い時間を過ごして観察したわけではないですが、契約書を飲み込んだり、人間とは思えないことをやってのけてしまったりするので」

「まぁ、そうでしょうね。しかし、残念ながらそれは表向きの姿に過ぎません。あの方は非常に演技がうまいですからね」

「演技?」

「演技と言っても例えです。わざとらしく本性を隠すための陳腐な演技という意味ではありません。あれもまたあの方の本性では有りますが、全て見せているわけではないですし、もう一つの顔を隠すための見事な一面なのです」

「隠す? 総監という立場を、ということですか?」

「いいえ、千珠咲長が隠そうとしているのは自らの存在自体です」

 微笑みながら言う麗鈴の言葉に仄は首をかしげた。存在などとてもあの人は隠しているようには思えなかったし、あれだけの傍若無人ぶりだと嫌でも存在が刻み込まれるのではないかと思ったからだ。

「余談ですが、千珠咲長は私が知るかぎりこの数100年姿が変わってませんよ」

「そんなこと、ありえないのでは? いくら長寿命のものでも姿が変わらないなんてありえない。人は必ず老化していくものですし、麗鈴さんだってさっき、不老ではないと言っていましたし。何より数100年なんて生きてられるはずが」

「普通の人間には老化という逃れられないものが付与されています。ですが私も含め貴女も普通ではない。私の寿命は非常に長く、私以外の研究対象だった者の中には非常に短いものも居ました。生きてられないはずの数100年を生きているのが貴女の目の前にいます。ちなみに貴女の寿命についても未知数です」

 仄は眉間に皺を寄せ、麗鈴の言葉に困惑しながらも、小さく息を吐いて聞いた。

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