他の長官と違い、レナートは要求や要望があればすぐに千珠咲に連絡をとり、要求を通すように説得する。

(ふむ、しかし……)

 レナートは目の前の千珠咲の微笑を見つめながら少し考え込んだ。

 自分の、要求をすぐにでも通そうとする性格を千珠咲はわかった上で「要求はないか? 」と問いかけ笑顔で居るのだろう。

 ここで何もないと言ってしまうのはなんだか癪だと思ったレナートは千珠咲を見つめて「何でも? 」と念を押した。

「構わん。なんでも聞こうといったのは私だからな」

「では、遠矢仄のこれからのデータを送っていただきたい」

「破棄したものをどうするつもりだ?」

「組織としてではなく、個人的な興味があります。確かに彼女はわれわれの研究対象として成長がみられませんでしたが、純度が高いものとしてのここまで生きていること、成長しておらずとも数値には目を見張るものがあります。組織として総合的に見れば不必要ですが、個人的に見れば今後のためにデータを取ることも必要かと思います。ですのでデータは個人に送ってくださって結構です」

「ふん、よく喋る。しかし、お前が個人的に関心を示すなんて珍しいな。……何かあったのか?」

 レナートは暫く考えこんだ後、小さく息を吐く。

「しいて言えば、館長が興味を持ってらっしゃるようだったので気になったのです」

 レナートの館長という言葉に千珠咲の眉が少し下がり、眉間に皺を作った。

「館長が? どういうことだ」

「いつものように貴女の素体を鑑賞しに館長がいらっしゃったのですが、その時偶然、遠矢仄のデータが表示されていたのですよ。通常ならさらっと視線を走らせるだけで貴女の素体を鑑賞していかれるのですが、何故かデータをよこせと言ってきまして」

「渡したのか?」

「それは当然、館長が発する言葉は全て館長命令ですからね。まぁ、貴女がデータを消したのですから館長の手元のデータも消えたと思いますけどね」

 レナートの言葉に千珠咲は鼻で笑う。

「無いな、館長の手元にあるデータは生きているはずだ。私の権限はそこまで及ばない」

「そうなんですか?」

「名称としては私のほうが位が高いことになるが、実際この島での一番の権限と力を有しているのは当然のことながら館長だ。まぁ、館長は狙って館長という立場に甘んじているからな、お前が勘違いしたように、まるで私の力が全てに及んでいるかのように装うにはちょうどいいだろう? あの人は言葉を巧みに使うのが好きだからな。だが、館長の全ては私の行ったことに影響されることはない。その逆はあってもな」

「ほぅ……」

 感心するように言ったレナートの応答に、千珠咲は口の端を引き上げた。

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