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そこにはこの全島に居る全ての者達のデータが記されている。もちろんレナートや他の長官たちの者も揃っていた。
千珠咲が指を鳴らせば、徐々に収縮し本は爪の先ほどの大きさとなる。それを千珠咲は口に放り込みごくりと飲み込んだ。
「流石レナートだな。心地いい飲みごたえだ」
「全く、突然総会に出席するから全データを持って来いと言われた時は一体何事かと思いましたよ。データは毎月ちゃんと所員から送られているでしょう?」
「もちろん送ってもらってるけどねぇ、ここ数ヶ月のは胸焼けがするんだよ」
「胸焼け、ですか」
千珠咲が胸焼けといった途端、レナートの顔色が変わり眉間に深い皺が刻まれる。
「お前は嘘を付くことを酷く嫌うし、自身も潔白で在り続ける。レナートの情報はいつ何時も確実で正確だ。飲み心地も後味もスッキリしていて気持ちが良い。このところの具合の悪さは私の気のせいかと、比べる為に頼んだんだが、やはり気のせいではなかったようだ」
「なるほど、そういうことですか。分かりました帰島したらすぐに調べます。ちゃんと目を光らせていたと思ったのですが、不正者が出るとは。処理はどうしましょう?」
「第1島の管轄はレナートだ、判断はレナートに任せる」
「了解しました。次はありません」
「だと良いが。人間というのは流されるものだからな。それと私の素体はどうなっている?」
「順調です」
「不正者が出たんだ、十分気をつけろ」
「あれは私一人の仕事ですので流出は無いと思いますが、帰島したらすぐに調べます」
「頼むぞ、あれの流出はこの世界の終わりだからな。それで素体はどれくらい育った?」
「そうですね、現在10歳程度というところでしょうか」
「ようやく10歳か」
「仕方がないでしょう。他のモノと違い貴女の素体は特別です。成長とともに貴女の知識を学ばなければならない上に、現在の貴女との全てを共有もしなければならない。加えて貴女からの無茶な要望に私一人で答えているのです。これでも早くなった方で褒められてもいいぐらいですよ」
レナートのため息に優しい笑みを浮かべた千珠咲は小さく「すまんな」と声をかけた。
「第1島の長官の責務ですからね。それに私は歴代長官に負けたくありませんし」
「そうか。確かにレナートは歴代の中では私的にも最高の長官だが、一つ気に入らないとすれば知識優先の所だけだな」
「研究者としては当然のことでしょう。それ以外に優先することなど何もありません」
「全く、せっかくの人間的感情が台無しだな」
やれやれとため息交じりに千珠咲が言えば、レナートはそれが何かという風に無表情で千珠咲を見つめ返す。
そんなレナートを見つめていた千珠咲の瞳は一度深く閉じられ、再び開いたときは鋭く輝きながら口元に笑みを浮かべる。
「さて、雑談はこの辺にするか。本題の要求は?」
千珠咲の問いかけに考えこむレナート。
要求は様々、無いわけではないが、すでに千珠咲に請求済みのものばかりだったからだ。
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