「だからといって館長のデータを漁ろうと思っても無駄で、館長本人からデータを譲り受けるなんてことは不可能に近いぞ」

「わ、わかってますよ、それくらい」

 見透かされていることに少々慌てながら、レナートは咳払いを一つ。

「そ、そんなことより、遠矢仄に館長がそれほどまでの興味を示しているんです。私が興味をそそられないわけ無いでしょう」

 少し慌てながら話題を変えてきたことに千珠咲の口元はにやりと緩む。

 未だ言い訳じみたように言葉を吐き出すレナートに、わかったと頷きながら千珠咲は、データを送信してやる代わりに館長の様子を逐一報告するようにレナートに言った。

「館長の? 我々が知ることができることなどごく僅かですが、それでも?」

「ごく僅かな情報が非常に重要なこともある。先程も言ったが、私にある権限では館長の考えを探ることも、行動を規制・監視することも難しい」

「館長が何か企んでいると?」

「実際、あの人が常に何かを企んでいないということの方が少ないが、いつもであれば私もそれに興味は無いところだ。しかし今回は特別だな。ただ、今の段階ではそうであろうという域でしかない。確実なものが欲しいのだよ、館長が何を考えているのかを探るためにも情報が必要だ」

「分かりました。では、小さなことも見逃さず報告します」

 二人の折り合いがつくと、レナートは「では」と席を立つ。

「あと11もあるのか」

 千珠咲がため息をついて呟けば、ドアから出ようとしていたレナートが振り返った。

「私は貴女に別の用事もありましたし、要望なども常に伝えてありますのでこの程度ですが、他の連中はそうも行かないと思いますよ」

「なんだと?」

「ここぞとばかりに貴女に無理難題を要求するでしょうね」

「……なんだ、と」

 面倒なことが起こりそうな予感に、眉間にしわを寄せた千珠咲を見てレナートは口の中で小さく笑いつつ、閉まりかけのドアの隙間から微笑む。

「貴女が思っている以上に彼らは自分は押さえつけられていると我慢しています。というより自分で勝手に『言ってはいけない』の中で我慢しているのですが、勝手に作り出したその中に身を置いている時点で、誰も言ってない自分が悪いなどとは思いませんからね。自分は押さえつけられているから言えないんだという理屈に逃げます。今回貴女が自身で何でもとおっしゃいましたからね、今言わないといつ言うんだ! ってなってると思いますよ。そうですね、私から一言、ご愁傷様です」

 にこやかなレナートの様子に、これはまじめにダメかもしれないと、全てを放り出そうとした。だがその瞬間、フェルネスの「ほぅら、やっぱり。有言不実行」というしたり顔が思い浮かぶ。

「おのれ、フェルネスめ」

 その場に居ないフェルネスに恨み言を言いつつ、千珠咲は苦虫を噛み潰したような顔で「次! 」と大きな声でドアに向かって叫んだ。


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