「純粋そのものだな。ベースジャパニーズでさらにそのほかの要素も全てジャパニーズとは珍しい」

 この地上では、大災害の後、数年間は何事も無かったがそのうち未熟児や何かしらの障害を持つ子供が生まれるようになった。

 そしてさらに数十年たったころには受精卵が母体の中で育つことは無くなり、人が人を産むという行為自体が困難となってしまう。それは人間だけの問題ではなく、生き残り、生きていた全ての生物に起こっていた。

 種の保存。

 何よりも優先されたそれは、このトラスパレンツァ図書館のある島が真っ先に成功し、全ての種が危機を向かえるその前に条件付で他の島に技術が渡った。そして、その条件は後に条約として掲げられることになる。

 トラスパレンツァ図書館から発生したその技術は条約を守ったそれぞれの島々に伝えられ、種の危機は去った。

 通常生成される個体にはベースとなる遺伝子に数種類の遺伝子を組み合わせ、何から何まで同じということのないよう生成された。

 生物を作る段階において個体差というものを大事にした結果である。

 ただ、人間以外の生物は開発された技術で作られて数世代が経ったころ個体差を重視した結果なのか自己繁殖に成功していた。ゆえに、現在では人以外の生物にこの技術を応用することは無くなり、自己繁殖が今もって全く出来ない人間だけがそれぞれの島の施設から生み出されている。

 このトラスパレンツァ図書館がある島は他の島々とは違い、人を生み出す際に特化した部分を作ることによってより優秀な人材を作り出していた。

 生み出され教育されて育つ環境もそれぞれ違う。

 島ごとに生成と教育の場所を分け成熟してから別の島に送り込むという形式を行っているのはトラスパレンツァ図書館のあるこの島だけだった。

 当然、ウォールもウェルネスもほのかもこの島のシステムの中で生み出された人間。

 だが、ほのかだけは他のものとは違い、混ぜ物は全くされていない純粋なベースをもつ人物で、そのような人間は今この地上には全く居ない。なぜなら、純粋な配合は必ず生成途中に腐り、人としての形を成すことは無かったからだった。

「ある意味伝説の生き物だな、珍獣というべきか」

「全く嬉しくない表現ですね」

「まぁ、そうだろうな。これを嬉しいなどというのはよほどの変人か、作り出せた事実に喜ぶ研究者だけだ」

 嘲るような笑いを浮かべて言い放った千珠咲ちずさに一体この人は何がしたいのかとほのかは眉をひそめる。そんな反応を気にすることなくほのかの経歴に目を通していく千珠咲ちずさ

「確かに、第7島に生まれたにしてはこの戦闘成績は無いな。駄目なものでも第7島生まれであればもう少しましな成績が残せるはずだ。だがマイナスがつくとは。純粋ゆえのといったところかな」

 それだけ言うと千珠咲ちずさは目の前にあるほのかの全ての経歴から生まれが記された画面の情報を消しさった。

 自分の名前と顔写真だけが残り白紙となった情報にほのかは目を丸くして驚き、一体何をするのかと叫びたかったがあまりの出来事に声が出ない。

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