「まぁ、僕たちはそれを分かっている上で全ての権限を貴女に譲渡しましたからね。権限は確かに全て千珠咲長ちずさちょうがもっているけど、千珠咲長ちずさちょうは結構『良い』加減でね、ここには縛り付ける規則は一切無い。上層の戦闘部隊みたいにがんじがらめな状態じゃ無いから、ずっとこっちの方が自由だと思うよ。それじゃ、僕は仕事に戻ります」

「って、W。お前、仕事についてほとんど説明してないじゃないか」

「そっちの子は流石純粋ジャパニーズなだけあって、優れてますよ。言うより働かせたほうが覚えると思います。ゆえに面倒でやらなかったわけではなく計算してやら無かっただけです」

「言い訳だけは一人前だな。興味の無いことには一切踏み込まないのはお前の悪いところだ」

「どちらにしても僕の仕事と彼女の仕事は違うでしょ。僕の仕事を教えたからって彼女の仕事が出来るわけじゃない。僕は無駄なことはしない性質なんです」

 微笑みを浮かべそう言い放ったウォールはほのかに契約をしたほうが面白い毎日が送れるよと声を掛けて、今いる部屋から放射線状に伸びた一つの通路へと入っていく。何が何やらといったふうに辺りを見回し、呆然としているほのか千珠咲ちずさは場所を移すからついて来いと、先ほど現れた本の山の奥の方へと歩いていった。

 器用に積み上げられた本はわずかにジグザグの道を作っており、千珠咲ちずさについて本を倒さないように注意しつつ歩いていけば、円形の空間の真ん中に机が一つ置いてある場所が現れる。

 こんなに本があふれているのにその場所にだけは全く本が無い。仄がその様子を不思議に思って見渡していると千珠咲ちずさが指を鳴らした。

 その瞬間、ちょうど本の山と何も無い空間の境目がオーロラ色に輝き始め円柱の筒を作り出し、空間はゆっくりと下がっていく。

「こ、これは」

「この場所じゃ色々不便だからな。私の執務室に来てもらう」

「不便。それは私や他の方の名前をいえないからですか?」

「Wめ、一応それは伝えていたか。あぁ、その通りだ。それに仕事の内容の説明もある。さっきの場所は聞き耳を立てている連中が多い。内容を聞かれたら厄介なことになりかねないからな」

 ほのか千珠咲ちずさの言葉に首をかしげた。聞き耳を立てている人物など誰もいかなかったように思ったからだ。

 感覚的には地下にやってきたように思っていたあの場所は、まぶしいほどの光と本に溢れていて、それ以外に人の気配も無ければ影さえ見えなかった。なのに聞き耳を立てているなど、まさか盗聴でもされているのだろうかとほのか千珠咲ちずさを見つめる。

 そんなほのかの視線に気付いた千珠咲ちずさは、

「ま、おいおい分かるさ」

 と含みを持った笑みで返事をした。

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