「ウォールさんは千珠咲ちずさちょう』って呼んでますし、恐らく私の上司になる人なんでしょうけど、たかが上司に全ての権限を譲渡しなければならないなんてそんなに偉い人なんですか? その割には暗号のやり方なんて見てるといい加減というか、適当な気がして」

「そんな口きいて後悔しても知らないよ。確かに千珠咲長ちずさちょうは僕の上司であり、契約すれば君の上司にもなる。でもね、それだけじゃないんだ。彼女はこのトラスパレンツァ図書館の総監でもある。僕たちはその直属の部下ということになるから秘密厳守、権限を取り上げられるのも当然さ。この本島、全ての権限を持ち、全てを取り仕切っているのが千珠咲長ちずさちょうなんだよ」

「全ての……。館長ということですか?」

「いや、館長は別にいるらしい。誰も会った事はないって噂だけどね。僕も無いし。副館長と館長代理って人もちゃんといる。副館長と館長代理って言うのは館内の事のみ対処する地位だけど、千珠咲長ちずさちょうはあくまで総監でこの本島全域、または本島外の事を仕切っている。館長は……、何してるんだろうなぁ気にしたこと無いや」

 ウォールの話を聞いてほのかは今度はどうして自分がそんな重要な場所の図書館員として呼ばれたのかが分からなくなった。

 ほのかたち、人間と呼ばれるものはこの世界では生産される存在である。

 ベースとなる遺伝子を組み込み、受精させてカプセルで10歳前後まで育てて出される。遺伝子の組み合わせや植え付けられる性質の違いから第6島で生産される人間は電子工学計の計算分野で力を発揮し、第7島で生産される人間は戦闘要員として、商人関連は第8島、製造研究関連は第9島、生産関連が第11島で、職人関連は第12島で育てられていた。

 それ以外の、人間の形をし体組織などの構成は人間と全く変わらないが、感情や頭脳という部分を省いて生まれてくる命令に忠実に従い実行する人型をドールと言い、それらは第10島にて生成されている。

 それぞれの島で育てられ相応の知識を有したものは予定されている他の島に送られた。

 第1、2島には第9島で育てられた製造と研究者の人間が送り込まれる。

 第3島には第8島と第11島、第4島は第6島、第5島には第12島で育てられた者たちが送られた。

 第7島の者たちは一度本島に送られ訓練を受けた後、その適性を考慮して、それぞれに合った警備が必要とされる場所に送られる。

 その生産過程で目的のために作られたが、その機能が適さないと判断された者たちは、その適性が他の島にあっていれば他の島に送られ、それすらなければ廃棄処分となるものもいた。それらは「不良品」と呼ばれ、適正を満たしている連中からは蔑まれる。

 戦闘成績はマイナスがつくほどに悪く、戦闘要員として生まれたのにもかかわらず本島に足を踏み入れることなく第3島送りとなったほのか

 廃棄処分になることは無かったが、彼女も数多くの者たちに不良品呼ばわりされてきた一人だった。

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